第22回認知神経リハビリテーション学会学術集会

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[S7] 整形外科疾患

[S7-04] 疼痛の持続により身体イメージの変容やネガティブな思考を呈した慢性疼痛患者

*羽方 裕二郎1、沖田 学1,2、田島 健太朗1,2 (1. 愛宕病院 リハビリテーション部、2. 愛宕病院 脳神経センター ニューロリハビリテーション部門)

【はじめに】感覚情報の予測と実際の感覚情報との不一致による身体イメージの変容や身体に対する情動的意識の変化が痛みの慢性化を招く(森岡,2020).今回,右大腿部の疼痛が持続した症例に対し,認知運動課題や患者教育,認知行動療法,日記を行い症状が改善したため報告する.

【症例紹介】本症例は腰部脊柱管狭窄症に対して5か月前に手術をしていたが,右大腿部の疼痛が持続したため,当院でL3/4 METLEX MILDとL4/5 TLIFを施行した70歳台の女性である.術後3週までの評価として,右大腿部の荷重時痛,歩行時の内省として「右足の痛みがずっと気になり,怖くて足元ばかりみてしまう」との訴えがあり,各種評価(HADS,PCS)より不安や疼痛に対する過剰な注意など情動的側面により疼痛が慢性化している傾向があった.また,右大腿部では2点識別覚の増加がみられ,「右足が太く感じる」との訴えがあった.さらに,右下肢荷重時に大腿四頭筋の過剰出力を認めたが認識困難であり,力を抜いて荷重を促すも「どうやって力を抜いたらいいかわからん」とのことだった.

【病態解釈と治療】本症例は疼痛の持続により大腿四頭筋の過剰出力がみられ,身体イメージの変容などの認知的側面に加え,不安などの情動的側面により修飾された疼痛が慢性化していたと考えた.治療課題は硬さの違うスポンジを踏み分け,大腿四頭筋の筋出力調節課題を実施し,踏んだ際の筋出力情報の予測と実際の感覚情報の不一致を是正していった.また,認知運動課題と併用して情動的側面に対して患者教育,認知行動療法,日記などの課題を通して自主練習への取り組みと能動的な運動を促した.

【結果】術後6週の評価として,各種評価より情動的側面の影響が軽減されていた.右大腿部の荷重時痛はNRS7→4/10,2点識別覚や身体イメージの左右差はなくなり,大腿四頭筋の過剰出力は消失した.荷重時の内省として,「今まで右足に力入りすぎちょったのがよくわかる」と変化がみられた.

【考察】改善した要素として,認知的側面と情動的側面に対する課題により大腿四頭筋の筋出力調節が可能となったことで疼痛が軽減し,身体イメージが改善した.さらに身体に対する注意の向き方や思考に変化がみられたと考えた.

【倫理的配慮 説明と同意】対象者から発表について説明し同意を行った.個人情報保護の観点から匿名性に十分な配慮を行った.