第22回認知神経リハビリテーション学会学術集会

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[SL] 特別講演Ⅲ

2022年10月1日(土) 17:30 〜 18:40 第1会場 (ライブ配信)

座長:高梨 悠一(YMCA米子医療福祉専門学校)

17:30 〜 18:40

[SL-03] 自分にできることを自分らしく,自分の目線で,自分の考えで伝えていくこと

*小川 昌1 (1. 医療法人 かつべ整形外科医院)

長く臨床の場に立ち,多くの方々と接してきた.その方々には,人生の経験,過去がある.病から来る,つらさ,苦しみ,悩み,そういったものは過去から繋がってくるものであり,時間の中で変化をし,重く受け止めるようにもなる.単純に一つの記憶としての形ではなく,そこに幾重にも連なる感情がその受け止めをより重くすることもある.病は運命なのか,定めというものなのか.それを受け止め,諦め,抗い,それでも闘う.受け入れられるものなのか,長く続く葛藤がそこには存在するであろう.病の経験は今,まさに今ここにあるものではなく,長い過去を引きずって来ているものであると言える.
 今,私たちが相対する方々にはそういった過去から導かれる「何か」がある.リハビリテーションはその「何か」をしっかりと見つめているだろうか.その「何か」を深め,読み解き,語り合うことをしなければ,前に進めないのではないか.過去そして今を見つめなければ未来を切り開くことはできないのではないか.私たちが本質的に捉えるべきは,この時間軸であるのかもしれない.そして,私たちは,「目に見える」ものだけでなく,「目に見えない」ものも見つめなければならない.「目に見えない」もの,つまりはその方々の心の中に留められているものは過去からの経験によって創り出されたものであると言えよう.
 その人を創った過去,そして今.時間軸の中で,認知神経リハビリテーションは未来を描くことができるツールとなり得るのか.私たちは認知神経リハビリテーションを通して,さまざまな観点から学ぶ大切さ,必要性を知った.人をみる,人を知るために必要なものは医学の範疇を越える.哲学,社会学,教育学,芸術,言い出せば枚挙にいとまがないが,それらの知見を駆使し,「何か」を見つめ,回復を目指すことが私たちのすべき事柄であろう.
 本講演では,運動器疾患の症例を通し,過去・現在・未来といった時間軸を柱にして疾患の本質,病態解釈,そして人生を語ることを解説したい.臨床という場は,つらさ,苦しさ,悩むことがいつも付き纏う場である.しかし,そこは回復することに繋がる場でもあり,納得し前に進むことができる場でもある.私自身が悩み,苦しみながらも前に進むために大切にしている「ブリコラージュ」や「ネガティブ・ケイパビリティ」の考え方なども披露し,困難な状況をどのように打開するのかのヒントを提示したい.「私たちの臨床」がより豊かになるために何をすべきか,私の経験を踏まえてお伝えしたい.