11:05 〜 12:00
[SP-02] 患者と語る - 痛みを巡る臨床と語り -
私は14歳の頃に靭帯損傷を契機にCRPSを発症しました.術後は歩行どころか地面に足さえつくことができず,あるはずもない刃物で切られるような痛みから「足の中に刃物が残っていないかもう一回手術してみてほしい」と涙ながらに医療者に懇願したことを覚えています.今回,学会に登壇することを声を掛けてくれた江草さんはこの時から私の担当理学療法士でした.
そんな私は入院生活を送る中で共に生きる仲間と出逢い,夢を得て,小児科看護師を目指し,2度の手術と長期間の入院,5年間の通院リハビリを経てやっと“普通の女の子”になれました.友人や彼氏とできなかった経験や思い出がありすぎて“普通”を渇望したのが私の10代だったように思います.これも偏に,私を取り囲む医療スタッフの皆さんの血の滲むような努力と勉強,弛むことのない強い想いがあったからこそ私は“普通の女の子”の生活ができるほどのADLを取り戻すことができました.そして大学に入学し,入院していた病院の小児科看護師となり,ハッピーエンド.自分の過去を意味のあるものであったと肯定できるほど“小児科の看護師”という夢を叶えた自分を誇らしく思えました.
ここまでで私のCRPSストーリーは終わる予定でした.しかし26歳で突然の再発を機に引きずり落とされるように夢を奪われ,運動機能も落ち,風さえも耐え難いほどのアロディニアに苦しむことになり,運命からのインフォームドコンセントの微塵も感じないCRPSストーリーの続編が始まりました.
目を瞑ると透明になくなる左下腿.自分の身体であるはずなのに足の位置がどこにあるかさえ分からない言いようのない感覚.筋肉の動かし方さえ分からなくなり“いつもの場面”で転倒してしまう恐怖.「私が悪いならもう謝るから元に戻ってほしい」といつしか思うようになるほど暴走し続ける神経症状.「痛みとなる理由もないのにこれだけ痛がる自分はもう異常だ」そんな罪悪感と虚無感.「今日も生きないといけない」と痛みと不眠で心身共に困憊していく日々.この身体は自分のはずなのにもはや自分とは感じられない.どうやったら取り返せるのかも分からない.真っ暗闇に突き落とされたと思ったら,いきなり絶叫マシーンに乗せられて何も見えないのに上下左右予測不能に動く,普通の女の子であったはずのストーリーは,そんな毎日を経て展開の読めないストーリーに変化しました.
そして,私は「私」を失いました.
しかし,臨床という場でたくさんの人の力を借り,対話を重ね,長い時間をかけてまた自分を形造る作業を繰り返し今に至ります.“誰かを信じること” “自分を信じてもらうこと” “自分を信じること” そして “自分を許すこと” .振り返れば目に見えないにも関わらず確固と思えるほどのものを築くことができたように思います.
当日は,私がここまで体験した事実を皆さんに私の目線からお伝えしたいと思います.この学会を通じて,私と私の大切な人たちで造り上げた 私という“臨床の造形”が何かの形で皆さんに届き,誰かのために繋げてくださることを願っています.
登壇者:来間 佳世子(CRPS当事者)
江草 典政(島根大学医学部附属病院)
そんな私は入院生活を送る中で共に生きる仲間と出逢い,夢を得て,小児科看護師を目指し,2度の手術と長期間の入院,5年間の通院リハビリを経てやっと“普通の女の子”になれました.友人や彼氏とできなかった経験や思い出がありすぎて“普通”を渇望したのが私の10代だったように思います.これも偏に,私を取り囲む医療スタッフの皆さんの血の滲むような努力と勉強,弛むことのない強い想いがあったからこそ私は“普通の女の子”の生活ができるほどのADLを取り戻すことができました.そして大学に入学し,入院していた病院の小児科看護師となり,ハッピーエンド.自分の過去を意味のあるものであったと肯定できるほど“小児科の看護師”という夢を叶えた自分を誇らしく思えました.
ここまでで私のCRPSストーリーは終わる予定でした.しかし26歳で突然の再発を機に引きずり落とされるように夢を奪われ,運動機能も落ち,風さえも耐え難いほどのアロディニアに苦しむことになり,運命からのインフォームドコンセントの微塵も感じないCRPSストーリーの続編が始まりました.
目を瞑ると透明になくなる左下腿.自分の身体であるはずなのに足の位置がどこにあるかさえ分からない言いようのない感覚.筋肉の動かし方さえ分からなくなり“いつもの場面”で転倒してしまう恐怖.「私が悪いならもう謝るから元に戻ってほしい」といつしか思うようになるほど暴走し続ける神経症状.「痛みとなる理由もないのにこれだけ痛がる自分はもう異常だ」そんな罪悪感と虚無感.「今日も生きないといけない」と痛みと不眠で心身共に困憊していく日々.この身体は自分のはずなのにもはや自分とは感じられない.どうやったら取り返せるのかも分からない.真っ暗闇に突き落とされたと思ったら,いきなり絶叫マシーンに乗せられて何も見えないのに上下左右予測不能に動く,普通の女の子であったはずのストーリーは,そんな毎日を経て展開の読めないストーリーに変化しました.
そして,私は「私」を失いました.
しかし,臨床という場でたくさんの人の力を借り,対話を重ね,長い時間をかけてまた自分を形造る作業を繰り返し今に至ります.“誰かを信じること” “自分を信じてもらうこと” “自分を信じること” そして “自分を許すこと” .振り返れば目に見えないにも関わらず確固と思えるほどのものを築くことができたように思います.
当日は,私がここまで体験した事実を皆さんに私の目線からお伝えしたいと思います.この学会を通じて,私と私の大切な人たちで造り上げた 私という“臨床の造形”が何かの形で皆さんに届き,誰かのために繋げてくださることを願っています.
登壇者:来間 佳世子(CRPS当事者)
江草 典政(島根大学医学部附属病院)