Riabilitazione Neurocognitiva 2023

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クリニカル・ディスカッション

クリニカル・ディスカッション

[CD] クリニカルディスカッション④

Sun. Oct 8, 2023 1:10 PM - 2:10 PM 第1会場 (B2F 伊藤謝恩ホール)

座長:大松 聡子(国立障害者リハビリテーションセンター)

1:40 PM - 2:10 PM

[CD-08] 高次脳機能障害を併発した皮質盲患者がどのように世界と適応するかを探る

*石橋 凛太郎1 (1. 村田病院)

対象者の経験する世界を知るために,私たちセラピストは症状の背景を推察し紐解きながら解決への糸口を探る.その世界は対象者ごとに異なり,複雑で,重なり合いながら構成されていることは,セラピストが日々感じていることであるように思う.単に損傷部位に関連する脳機能が低下するだけではなく,それに対し適応していく過程全体が症状として現れ,対象者の世界の一部になっている.
 今回,皮質盲を呈し視覚入力がないにも関わらず,あたかも見えているかの様に振る舞う症例を経験した.視覚はリアルタイムでの入力情報のみならず,他の感覚情報と統合し,過去の経験と比較しながらそれが何であるかを推論することで,行為を創発する.この統合の過程では,最も確からしいと思える世界を脳内で再構築するために,各々のモダリティからの感覚情報をできる限り矛盾なく統合しようとする.その過程において,曖昧な情報についてはより信頼できるほかの感覚によって補完しようとする機能が働き(伴, 2021),対象者は世界を成り立たせている.
 提示する症例は,脳アミロイドアンギオパチーに伴う4度の脳出血を呈した70歳代の女性である.認知機能障害,前頭葉障害,半側空間無視,同名性半盲などが出現し,今回の脳出血後に皮質盲状態となった.皮質盲を呈している認識はなく,物音がするとあたかも家族がいるかのように振る舞い,応答がないことを「無視されている」と誤認した.また,排泄の際も便座位置の探索行動は認めず,便座が見えているかのようにその場に座り込むなど,現実と非現実の区別がつかない場面が観察された.この症例に対し,残存機能を評価し,生じた結果からの推論を段階的に促すことで,盲症状に対する自覚が部分的に生まれ,行為の一部に変容が見られた.
 このような臨床経験を通し,後天的に視覚入力がなくなった症例が,新たに世界を推論し適応していく視点から行為のメタラーニングについて議論する機会としたい.