1:40 PM - 2:30 PM
[CS-03] 行為空間の再学習は可能か
失行症は,左半球損傷後に生じる高次脳機能障害の一つである.失行症を呈した患者の行為は時間的・空間的エラーをもって表れ,運動の組織化に異常を示す.臨床症候としては,道具使用障害や自動詞/他動詞ジェスチャー障害,模倣障害といった多様な行為空間のエラーが観察される.その中で,左半球損傷患者が行為の再学習を目指すうえでの大きな障壁のひとつは,拙劣で努力的な運動が両手に生じることではないだろうか.しかしながら,右手のエラーは運動麻痺と,左手のエラーは非利き手の影響と混同されやすく,患者は「初めてする動きだから難しい」「左手だから仕方ない」と,それが失行症による行為の変質であるとは気付かないことが少なくない.失行症と同様に左半球損傷後に生じる失語症においては,病識の欠如が予後に悪影響を及ぼすことが知られている.これらから,失行症を呈する患者においても,自己のエラーを自覚することや自己の病態を理解することが行為の再学習において有益となる可能性がある.そこで今回,失行症を呈する患者が病識を獲得することの可能性について提案する.
失行症と病識については,患者自身が意図と実際の行為のギャップを感じていること(Arntzen et al.,2013)や,症状の重症度と病識の程度は関連しないこと(Kusch et al.,2018)などが報告されている.ここで,病識の有無や程度を評価する指標を考えるにあたり,病識の土台となるであろう自己のエラーへの気付きを取り挙げると,失行症状に対する気付きは修正行為(conduite d’approche)という表現型になると考えられる.修正行為は,伝導失語でいうところの接近行為に相当するもので,目的とする行為に対し試行錯誤が認められる状態を指す.清水ら(2018)は,修正行為は意識的な情報処理による行動修正の結果生じるものであると述べ,質的な介入研究においてこれが失行症の改善傾向を見出す糸口になったと報告している.
本クリニカルセミナーでは,左半球損傷患者の運動麻痺を呈する右手,麻痺はないがうまく動かすことのできない左手をどのように学習へ導くことができるのか,病識と修正行為を一つの足掛かりとしてメタラーニングの視点から検討し,皆さまとともに議論する機会としたい.
失行症と病識については,患者自身が意図と実際の行為のギャップを感じていること(Arntzen et al.,2013)や,症状の重症度と病識の程度は関連しないこと(Kusch et al.,2018)などが報告されている.ここで,病識の有無や程度を評価する指標を考えるにあたり,病識の土台となるであろう自己のエラーへの気付きを取り挙げると,失行症状に対する気付きは修正行為(conduite d’approche)という表現型になると考えられる.修正行為は,伝導失語でいうところの接近行為に相当するもので,目的とする行為に対し試行錯誤が認められる状態を指す.清水ら(2018)は,修正行為は意識的な情報処理による行動修正の結果生じるものであると述べ,質的な介入研究においてこれが失行症の改善傾向を見出す糸口になったと報告している.
本クリニカルセミナーでは,左半球損傷患者の運動麻痺を呈する右手,麻痺はないがうまく動かすことのできない左手をどのように学習へ導くことができるのか,病識と修正行為を一つの足掛かりとしてメタラーニングの視点から検討し,皆さまとともに議論する機会としたい.