第23回認知神経リハビリテーション学会学術集会

講演情報

一般演題

ポスター発表

[P2] 神経系(上肢)

[P2-09] プリシェーピングに母指の接触イメージを取り入れた訓練の検討

*日下部 洋平1、玉木 義規2、本田 慎一郎3 (1. 豊郷病院、2. 甲南病院、3. リハ塾SHIN )

【はじめに】
 人間のつかみ動作について親指は把持位置を調節する基準として動かされるという報告がある(熊澤,2003)この研究を臨床応用し母指の指腹が接触するイメージの想起はプリシェーピングに影響を与えるという仮説を立て,左片麻痺患者に対し訓練を行った.その結果を報告する.

【症例】
 左放線冠梗塞を呈し発症2ヶ月経過した80歳代女性. BRS上肢Ⅳ手指Ⅴ.表在覚は良好.深部覚は軽度鈍麻.上肢の重さと手指の開きにくさを訴えた.手指は集団伸展が可能だが手関節の背屈は不十分だった.対象物へのリーチ動作を行うと肩甲帯挙上の放散反応と体幹の前傾運動が見られた.動作開始時より前腕中間位で2~5指軽度屈曲位で手指を開くこと無くリーチし中指が接触したところで対象物を押すように把持した.

【病態解釈】
 プリシェーピングではリーチ開始後に対象物に合わせて手指を広げる動作が起こるが,症例は対象に合わせた手指の開き動作は見られず,中指の接触後に把持動作が開始されたため,リーチと把持の運動を分けて想起しており,運動開始時の把持動作のイメージ想起が不十分だと考えた.そこで母指の指腹が対象に接触するイメージを想起させることで,母指を把持位置の基準としたプリシェーピングが出現すると考えた.

【訓練】
 5㎝の立方体ブロックを正面に置き,ブロックの指定した面に母指の指腹を触れるためにどのように左上肢を動かしたらよいか十分に思考させた後、実際に触れる動きをさせた.この時の肩関節・肘関節・手関節は自動介助で行い手指は自動運動で行った.

【結果】
 プリシェーピングでは対象物に中指が初めに接触することは変わらなかったが,リーチ開始時に手指を広げる動作がみられた.しかし訓練後の主観は変わらないと記述した.

【考察】
 開始時より手指を広げる運動が起こっている事から対象物に手を合わせていく動作を想起するようになったと考えた.しかし母指が把持位置の基準となるプリシェーピングにならず記述にも変化が無かった.この事は手関節背屈が行えず十分に手の構えを作れなかった事とリーチの病理が影響したと考え,今回の訓練を行う前にそれぞれの病理に対して訓練を行う必要があったと考えた.今回は母指の接触イメージ課題の適用や有効性に十分な検証が行えなかったが,今後も引き続き検証を続けたい.

【倫理的配慮.説明と同意】
 本発表に関して本人と家族に口頭で説明し同意を得た.