Riabilitazione Neurocognitiva 2023

Presentation information

一般演題

ポスター発表

[P2] 神経系(上肢)

[P2-14] 前方へのリーチ動作時に「腕が後ろに戻される」と訴えた右片麻痺症例 ~記述の背景にある患者の意図とは〜

*大竹 貴裕1、大平 雅弘2、青木 良磨3 (1. 横浜新緑総合病院、2. 植草学園大学、3. 登戸内科・脳神経クリニック)

【はじめに】
 認知神経リハビリテーションでは、行為における患者の意図について、記述を基にした推測が重要である。今回、前方リーチ動作時に、なぜか「腕が後ろに戻される」と記述した患者の意図を推測して介入した結果、行為の改善がみられた症例を以下に報告する。

【症例】
 左被殻出血、右片麻痺の60代男性。発症から26ヵ月経過し、訪問で介入中。身体機能はBRS右上肢Ⅴ、手指Ⅴで、感覚は表在・深部ともに右上下肢軽度鈍麻であった。MMSEは30点だった。座位は床への垂直線に対し骨盤後傾12°で姿勢を「まっすぐ」と記述した。骨盤後傾位の自覚は乏しいが、臀部圧の認識は良好だった。前方リーチ動作は骨盤後傾位で動作し、右肩関節外転内旋、体幹伸展左側屈の代償と、体幹背部の過緊張がみられた。この時「肩に力を入れないと伸びない、腕が後ろに戻される」と訴え、上肢以外の身体への問いはわからないと答えた。

【病態解釈】
 「腕が後ろに戻される」という記述は骨盤後傾位により、動作時に体幹背部の過緊張が生じている可能性がある。背景に骨盤後傾位の自覚が乏しいことに加え、注意が上肢に向きやすく骨盤の身体表象の欠如が影響していると推察された。そこで臀部圧を基にした情報構築により骨盤後傾位の自覚、修正を図り、前方リーチ動作による骨盤位の変化を確認することで行為および訴えが改善すると考えた。

【介入と経過】
 坐骨下に挿入した縦5cm、横30cmのストライプに対する重心位置から骨盤位を問う課題後に、骨盤前傾、垂直、後傾位で前方リーチ動作を比較した。介入は週1回60分、計3回実施した。課題を通し「腰が起きていなかった、腰を起こすと後ろに戻されず肩を楽に出せる」と認識が変化し、座位は床への垂直線に対し骨盤後傾5°へ改善した。リーチ動作時には骨盤前傾による重心移動が増加し、右肩関節外転内旋、体幹伸展左側屈による代償動作と体幹背部の過緊張が改善した。

【考察】
 リーチ動作時の「腕が後ろに戻される」という意識経験から、患者はより肩に力を入れなければならないという誤った意図がさらに上肢に注意を限局化させ、学習を困難にさせていたと考える。その背景にはリーチ動作における骨盤の表象と後傾位の関与が推察された。本症例を通じて、行為の学習における患者の記述と意図の重要性を再確認した。

【倫理的配慮】
 発表について説明し、書面で同意を得た。