Riabilitazione Neurocognitiva 2023

Presentation information

一般演題

ポスター発表

[P2] 神経系(上肢)

[P2-16] 伸張反射の制御に伴い出現した接触時の痺れを「これまでに感じたことのない不快な感覚」と記述した慢性期脳卒中症例

*中西 亮太1、石橋 凜太郎1、寺田 萌1、市村 幸盛1 (1. 村田病院)

【はじめに】
 運動意図と実際の感覚情報との間に不一致が生じると,痛みや痺れの他,奇妙さや嫌悪感といった異常感覚が惹起される(Katayama,2016).今回,右脳出血後に重度運動麻痺を呈した慢性期症例の,伸張反射の制御に伴い出現した接触時の痺れと不快感について考察を行ったので報告する.

【症例】
 右被殻出血を発症した40歳代右利き男性.発症後3年3か月目に,1日2時間,2週間のLF-rTMS+集中的作業療法を実施する目的で当院へ入院した.BRSは上肢手指Ⅲで,感覚は軽度鈍麻,MASは肩屈曲1+,肘屈曲1+,伸展3,手指屈曲1,伸展3,FMA-UEは17/66点であった.外部観察として,安静時から肩外転・内旋,肘屈曲,手指屈曲位となっており,立ち上がりや歩行時には異常な放散反応を認めた.視覚分析や健側との左右比較は良好で,表在覚より深部覚に注意が向きやすい特徴から,空間課題を実施した.課題を通して,伸張反射,放散反応は制御され,1週間後のMASは肩屈曲1,肘屈曲1,伸展2,手指屈曲1,伸展2となったが,手掌への接触時に痺れが生じるようになり,「これまでに感じたことのない不快な感覚」と記述した.

【病態解釈と介入指針】
 本症例は,左手指が屈曲位で,手掌の接触情報を知覚する経験が乏しい状態で長期間経過していた.空間課題を通じて深部覚へ注意を焦点化することで特異的病理が制御され,筋緊張は減弱し,手掌への感覚入力が可能となった.しかし,長期間入力がなかったため,新たな感覚入力に対する知覚仮説が形成されず予測情報と実際の感覚フィードバックで不一致が生じ,結果的に痺れや不快感を惹起させたと考えた.これに対し,接触課題においても視覚分析や健側との左右比較を用いることで,不一致が是正され異常感覚の改善に繋がると考えた.

【経過と結果】
 視覚下で健側から接触情報を入力し,患側ではどのように接触情報が入るか知覚仮説を形成し,その後,両側刺激から徐々に患側のみの刺激に移行した.1週間後に痺れや不快感の出現頻度が低下し,FMA-UEは24/66点へ改善した.

【考察】
 単一モダリティへの注意の焦点化で特異的病理が制御できたとしても,新たな異常感覚が惹起される可能性もあることから,多角的な視点から知覚仮説を形成し身体感覚の回復に繋げる必要性が考えられた.

【倫理的配慮】
 発表に際し,症例に口頭で説明し同意を得た.