Riabilitazione Neurocognitiva 2023

Presentation information

一般演題

ポスター発表

[P3] 神経系(下肢・体幹)

[P3-09] 脊髄型減圧症により四肢不全麻痺および重度の感覚障害を呈した一症例
―歩行の再学習に向けた介入報告―

*岩崎 拓也1、菅沼 惇一2、林 節也3、田口 周司4、中谷 明賢5、千鳥 司浩2 (1. 大垣徳洲会病院リハビリテーション科、2. 中部学院大学看護リハビリテーション学部理学療法学科、3. サンビレッジ国際医療福祉専門学校作業療法学科、4. 山県グリーンポートリハビリテーション科、5. シンシア高山デイサービス)

【はじめに】
 随意運動中は大脳皮質の体性感覚誘発電位の振幅が低下するgatingと呼ばれる現象が報告されている.過剰な筋出力が生じると体性感覚フィードバックに干渉が生じ,正確な運動制御が阻害されることが知られている.今回脊髄型減圧症により四肢不全麻痺と感覚障害を呈した症例のgatingに着目し,治療介入したことで歩行能力改善を認めたため報告する.

【症例紹介】
 対象はダイビングにより脊髄型減圧症と診断された60歳代男性.MRI画像では頸髄広範囲に異常所見を認めた.第58病日での初期評価ではMMT上下肢4/3~4,感覚障害は上下肢ともに表在感覚が重度鈍麻(特にT10以下),深部覚は上下肢ともに中等度鈍麻で感覚性運動失調を呈した.動作能力は歩行器監視(10m歩行15.6秒,BBS35点)で立脚期では踵打歩行や膝関節過伸展,遊脚期には振り出しの方向にばらつきを認めた.また上下肢ともに自動介助運動を用い筋出力調整を求めると「動かしている感じがしない,動かされているだけに感じる」と記述していた.

【説明と同意】
 発表の主旨を本人に説明し同意の下,所属機関内の倫理委員会で承認を得た.

【病態解釈】
 症例は脊髄型減圧症により四肢不全麻痺と重度の感覚障害(協調運動が障害)が生じた.そのため運動主体感の低下に対し過剰な筋出力で感覚フィードバックを得ようとしたが,求心性入力がgatingされることで歩行の再学習が阻害されたのではないかと仮説立て治療指針を立案した.

【介入と経過】
 介入は過剰な出力を抑制しgatingの解除を図ることで,必要な知覚情報処理を可能とし,歩行の再学習を図ることとした.内容は①股関節空間課題,②股膝関節複合の空間課題,③足底接触課題を段階的に実施した.結果,表在感覚障害は残存したが深部感覚を中心に改善がみられ,過剰な筋緊張は軽減した.第98病日で独歩自立となり10m歩行8.2秒,BBS54点となった.内省として「前より力まなくても動いているのが分かる」との一方で「鎧を纏ったよう」との記述が残存した.

【考察】
 感覚障害に伴い協調運動障害を呈し,それにより感覚情報がgatingされたことで学習過程が阻害された状態であった.介入により知覚能力が向上し歩行の再学習に至ったと考える.一方で表在感覚障害は重度に残存したため,多感覚情報の統合が困難となり身体意識の変質が残存したと思われた.