Riabilitazione Neurocognitiva 2023

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特別講演

特別講演

[SL] 特別講演Ⅰ

Sat. Oct 7, 2023 10:20 AM - 11:40 AM 第1会場 (B2F 伊藤謝恩ホール)

座長:安田 真章(東京大学医科学研究所附属病院)

10:20 AM - 11:40 AM

[SL-01] 能動的推論と運動制御

*吉田 正俊1 (1. 北海道大学)

われわれの知覚と行為は密接につながっている.この事態についてヴァレラは「身体化された心」で「知覚とは,知覚的に導かれた行為のことである」と再帰的に表現した.このような知覚-行為サイクルの更新則を提案したのがフリストンの自由エネルギー原理だ.自由エネルギー原理において行為とは,環境をよりよく知る認知の過程の一部であり,この過程を説明する計算論的モデルのことを能動的推論と呼ぶ.能動的推論において学習,発達,損傷からの機能回復はどれも(環境と行為と感覚受容の関係を表現した)生成モデルの変容として統一的に扱うことができる.このようにして能動的推論は,ペルフェッティの「運動とは認知である」「回復とは学習である」を実現している.

 また能動的推論は,運動制御について従来の理論と大きく異なる見方をする.従来の理論では,大脳が出す運動指令によって効果器(筋肉)が駆動され,運動指令の遠心性コピーと感覚器からのフィードバックによって正確な運動制御が行われる.いっぽう能動的推論では,大脳が出す信号は行為の結果の感覚入力の予測である.たとえば到達運動においては,手を伸ばした状態での筋紡錘の活動を予測する.この予測と,筋紡錘からの感覚入力との誤差が脊髄で計算され,それがゼロになるまで運動が行われる.能動的推論による説明はペルフェッティの言う「運動器とは情報器官である」そして行為における運動イメージの重視とよく合致している.

 能動的推論はまだ新しい考えであり,実験的検証が充分ではない.しかし,第4世代のリハビリテーション理論である認知神経リハビリテーションにおいて,能動的推論は重要な理論的基盤となる可能性がある.本講演では以上のことについて,なるべく数式を使わずに平易に説明することを目指す.


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吉田 正俊

北海道大学 人間知・脳・AI研究教育センター 特任准教授

東京大学大学院薬学系専攻博士課程中退,博士(医学).生理学研究所認知行動発達研究部門助教を経て,2020年1月より人間知・脳・AI研究教育センター特任准教授.専門は認知神経科学,神経生理学.意識の脳内メカニズムを解明することを目指して,盲視,半側空間無視,統合失調症の非ヒト霊長類モデルでの神経生理学,行動データ解析などの研究を行っている.