50th Memorial Annual Meeting of Japanese Society of Clinical Neurophysiology (JSCN)

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アドバンスレクチャー

アドバンスレクチャー11

Fri. Nov 27, 2020 2:30 PM - 3:00 PM 第3会場 (2F B-2)

座長:池田 俊一郎(関西医科大学 精神神経科学教室)

[AL11-1] 脳波を30分で好きになってもらうには

柿坂庸介 (東北大学病院 てんかん科)

脳波を「判読する」には多くの学習と経験を必要とする。ゆえに初学者には、脳波を「好き」になってもらうことが大前提であろう。私は東北大学病院てんかん科の教育担当主任として、臨床実習の学生に短期間で脳波とてんかん学を「好き」になってもらう業務を担当している。本講演では、てんかん科に配属された臨床実習初日の学生に対する入門講義の様子を紹介する。当科では約2週間の入院精査を受けた3症例の検討会を毎週実施しており、学生もこの検討会に参加している。私の入門講義の目的は、検討会において提示される長時間ビデオ脳波モニタリング検査の所見を、学生に楽しんで理解してもらうことにある。その為に以下のような工夫を施している。1)提示波形の視認性を高めるため、左・右のチャンネルを青・赤と色分けする。2)正常の覚醒ならびに睡眠脳波を認識させる。3)代表的アーチファクトである瞬目と咀嚼を認識させる。4)脳波波形の左右差に着目して、棘波および徐波を指摘させる。次に、てんかん発作ビデオの判定法として、以下の基本を教えている。5)役者が演ずる発作ビデオを提示する。6)それぞれの発作に対応した脳波所見も併せて提示する。このステップを踏むことにより、学生が脳波と発作を関連付けて理解できる。入門講義の終了後、学生は多職種による症例検討会に参加している。症例検討会では長時間ビデオ脳波モニタリング以外にも、病歴、現症、神経画像、脳磁図、神経心理、心理社会評価などが多角的に議論されるが、初学者にとっては何よりも脳波判読が難しいため、事前の入門講義の有無は学生の理解度を大きく左右していると考えている。症例検討会の司会の役割としては、難しい議論がなされた場合に、学生にも理解できる言葉での説明を主治医に求めることが大切である。学生の知識は症例検討会の議論のすべてを理解するレベルにはないが、てんかん診療における長時間ビデオ脳波モニタリングの意義を強く理解することは重要である。将来どのような進路に進むにせよ、てんかん診療における専門的診療の重要性を理解して欲しいからである。実習後の学生による無記名アンケートでは、入門講義により症例検討会の脳波と発作が良く理解でき興味が深まった、との回答を得ている。学生のみならず医療者においても入門講義は重要である。我々はすでに入門講義の有用性を遠隔会議システムと対面式で比較し、いずれも優劣のないことを報告している。現在、東北大学病院てんかん科では症例検討会を遠隔会議システムを用いて多施設と連携して実施している。参加する医師や臨床検査技師は実習学生より高い予備知識を持っているが、学生のレベルに配慮した症例検討会は、こうした医療従事者の理解度を高める意義もある。今後も、学生から専門医や専門技師まで幅広い階層において、てんかん学と脳波学を「好き」になる人材が増えることを願っている。