[AL14-2] 脳炎の脳波:いつ、どのように利用するべきか?
*脳炎における脳波検査の意義感染性の脳炎で見られる脳波変化は、病因に特異的な所見はなく、脳障害の程度に応じた重症度を反映した所見となる。非侵襲的な脳波は、計測時点での病態把握ができ、複数回の実施で臨床経過が客観的に評価可能となり積極的に活用したい。特定の感染症による脳炎と結び付けられる脳波所見は、例えばクロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt-Jakob Disease: CJD)や亜急性硬化性全脳炎(Subacute sclerosing panencephalitis: SSPE)で見られる全般性周期性放電(generalized periodic discharges: GPDs. 歴史的にはperiodic synchronized discharge: PSDと呼称)や、ヘルペス脳炎で見られる一側性周期性放電(lateralized periodic discharge: LPDs)である。ただし、GPDsあるいはLPDsも、疾患特異的な所見ではなく、GPDであれば代謝性脳症など、LPDであれば他の病因による急性破壊性病変やNCSE(non-convulsive status epilepticus:非けいれん性てんかん重積状態)を含むてんかん重積状態の鑑別を要する。GPDsの起源は、視床-皮質経路の重篤な機能障害や皮質の抑制系ニューロンの障害のいずれか、あるいは双方の関与が想定される。LPDsのみならず、GPDsもNCSEを含む非けいれん性発作との関連が指摘されており、特定の疾患は指し示さないものの病態改善のための治療介入適応を考慮する指標となる所見である。*自己免疫性脳炎で見られる脳波の特徴近年一連の神経表面抗原抗体の発見により、自己免疫機序による脳炎が広く知られるようになり日常臨床で遭遇する機会が増加した。特に、抗NMDA受容体(NMDAR)抗体を有する脳炎では、全般性律動性徐波(generalized rhythmic delta activity: GRD)にβ帯域の速波の重畳を認める所見(burst and slow complex, extreme delta brush)が特徴的である。こうした速波の重畳は皮質の過剰興奮を反映した所見であると想定される。多くは受容体やシナプスを構成するタンパクである細胞表面抗原抗体による脳炎は、悪性腫瘍に伴い発症する細胞内抗原抗体による中枢神経病変とは異なり、免疫調整療法に対する反応は一般に良好である。抗NMDAR脳炎のGrausによる診断基準では、支持所見に異常脳波が含まれる(局所あるいはびまん性の徐波化、基礎律動の乱れ、てんかん性放電、extreme delta brush)。NMDARのほか、AMPA受容体、GABA受容体、またLGI1を標的とする自己抗体に起因する脳炎では側頭葉内側にMRI画像上異常信号を呈し辺縁系脳炎の病像を示す頻度が高い。これらの脳波では病変を反映し両側側頭部の徐波化が認められる。また、GRDのほかFIRDA(frontal intermittent rhythmic delta activity)が見られうるが、これらも特定の自己免疫性脳炎に特異的な所見ではない。もっとも、周期性放電や律動性放電を伴うてんかん発作や新規発症のてんかん重積状態は予後不良因子であり、病勢判定・予後推定目的の脳波評価は有益である。