日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

アドバンスレクチャー

アドバンスレクチャー20

2020年11月28日(土) 16:00 〜 16:30 第4会場 (1F C-1)

座長:野寺 裕之(金沢医科大学 医学部 神経内科学)

[AL20-1] Collision Technique

稲葉彰 (関東中央病院脳神経内科)

 運動神経伝導検査で、末梢神経を最大上刺激する際のピットフォールとして、刺激強度が強すぎたり、刺激電極の位置が目的の神経よりずれてしまうことで近傍の別の神経に電気刺激が波及(Current spread)することがある。
 上肢では正中神経と尺骨神経は前腕では離れて走行するため、よほど強い刺激でなければcurrent spreadは生じないが、上腕部から腋窩、Erb点までは近接して走行することから、正常者においても別々に刺激すること困難なことがある。Current spreadが生じると、遠位刺激のCMAPと比べて振幅が増大したり、波形がゆがんだりすることでわかる。刺激による筋収縮を観察することでも推測することができる。Current spreadが生じるときにはcollision techniqueを用いることで、目的の神経の刺激による反応のみを取りだして記録することができる。
 例えば、短母指外転筋導出の正中神経伝導検査で腋窩やErb点を刺激する時に、尺骨神経にcurrent spreadが生じたときにはErb点刺激と同時に手首で尺骨神経を最大上刺激すると、手首刺激の逆行性のインパルスがErb点刺激でのcurrent spreadによる尺骨神経由来の順行性のインパルスと衝突することにより消失し、正中神経の反応のみを記録することができる。
 橈骨神経麻痺は上腕外側での圧迫によることが多いが、上腕外側で伝導ブロックが検出されないときには腋窩など更に近位部での刺激が必要になる。また筋皮神経や腋窩神経など上腕の筋の伝導検査でErb点刺激を行う場合、選択的な刺激ができないことが多く、collision techniqueにより正確なCMAPの記録が可能になる。
 近位筋導出ではErb点刺激によるCMAPとcollisionのための刺激による順行性のインパルスで生じるCMAPが重なることによりCMAPは複雑な波形となるが、最近の筋電計に備わっている、波形同士の引き算(Subtraction)を行う機能を使うことで目的のCMAPのみを取り出すことができる。
 経頭蓋磁気刺激(TMS)により導出される運動誘発電位(MEP)は末梢のCMAPと比較して持続時間が長く多相性を示すため錐体路での伝導異常の評価が難しかったがTriple Stimulation Technique(TST, Magistris et al;1998)を用いると定量的に評価することが可能である。小指外転筋など尺骨神経支配の手内筋導出の場合、①TMSによる下行性のインパルスが末梢神経に達したときに、②手首で尺骨神経を最大上刺激してCollisionさせたのち③Erb点を最大上刺激する方法で、運動ニューロン疾患や多発性硬化症での臨床応用が研究されている。