日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

アドバンスレクチャー

アドバンスレクチャー4

2020年11月26日(木) 13:00 〜 13:30 第4会場 (1F C-1)

座長:軍司 敦子(横浜国立大学 教育学部/国立精神・神経医療研究センター)

[AL4-1] ミスマッチ陰性電位の基礎科学から臨床応用にかけて

志賀哲也 (福島県立医科大学 神経精神医学講座)

ミスマッチ陰性電位(Mismatch negativity:MMN)は自動的識別機能を反映する事象関連電位(Event-related potential:ERP)として1978年にNaatanenらにより発見され、背景音の規則性からの逸脱を察知して発生する。実験的にはMMNは単一な音の中で、比較的稀な音が生じた際に100~200ms後に観察される長期潜時の認知反応(Long latency response: LLR)の一つとして知られているが、近年になって音の識別反応は長期潜時のみならず、100ms以内の中間潜時反応(Middle latency response: MLR)でも観察可能であることが知られるようになった。これらMLRやMMNは大脳聴覚皮質における反応と考えられているが、さらに最近は脳幹レベルでの反応と考えられているFFR(Frequency following response)においても逸脱反応が観察されるようになっている。
MMNについての基礎的研究が行われる中、1991年に統合失調症患者での減衰が報告されるようになってから、トランスレーショナル研究としても注目を受けていく。MMNの臨床応用については、刺激系列に注意を払う必要がないため理想的な方法であった。これまでの脳画像、神経生理学的指標を用いた研究から、統合失調症では上側頭回などの灰白質体積の進行性減少を認め、その異常はMMNの進行性の振幅減衰と相関していた。MMNの発生にはNMDA(N-methyl-d-aspartate)受容体が関与していることから、この進行性の脳病態にグルタミン酸神経伝達系の関与が示唆されている。最近では、精神病の初回エピソードや超ハイリスク状態に対しても、生物学的な研究が行われるようになり、同様に上側頭回等における灰白質体積減少、MMN 振幅減衰が明らかとなってきた。ここに至り、NaatanenらもMMNは統合失調症の発症を予測するbreak-through biomarkerであると提唱している。
これらの臨床研究から示唆される所見から、リバーストランスレーショナル研究として、今後MMNは脳病態解明と治療薬開発につながることが期待されている。