日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

アドバンスレクチャー

アドバンスレクチャー4

2020年11月26日(木) 13:30 〜 14:00 第4会場 (1F C-1)

座長:志賀 哲也(福島県立医科大学神経精神医学講座)

[AL4-2] 事象関連電位

軍司敦子1,2 (1.横浜国立大学 教育学部, 2.国立精神・神経医療研究センター)

事象に関連して惹起される脳電位を事象関連電位という.事象には知覚や運動支配,心的過程が想定されることから,広義では誘発電位や運動電位も事象関連電位に含まれるが,実務上は,知覚や運動,思考等にともなって生じる認知や注意,記憶処理の過程に関連した「内因性の」脳電位のみを指すことが多い.
内因性の事象に同期した脳電圧の変動は微少であるため,1試行の脳波記録で検出することが難しい.そこで,事象の生起した時点を基準に,複数試行の脳波を各々のサンプリングで加算平均することによって,背景脳波から目的の事象に関連した脳波を成分として際立たせる手法を用いる.すなわち,計測・解析方法ともに誘発電位と同様といえるが,事象関連電位の内因性と誘発電位の成分における大きな違いといえば潜時である.
事象関連電位における事象の生起時点とは,光や音が生じた時点や運動や思考の開始時点であり,概ね,光や音が生じて100 ms以降の潜時で頂点となる大脳における電圧変動を捉えたものが事象関連電位として扱われる.例えば,視覚情報の知覚にともなう成分には,一次視覚野由来のP100成分,紡錘状回由来のN170成分などがあり,これらの振幅や潜時の解析から視覚情報処理に関連する各皮質領域における賦活を観察する.さらに,知覚した情報への注意や判断の過程を反映する成分として,音などが生じてから100 ms以降の潜時で検出できるMismatch negativity(MMN)や,概ね300 ms以降に検出できるP300(P3a: novelty P3,P3b: 狭義のP300),エラーへの気付きを反映する Error-related negativity(ERN)も同定できる.あるいは,運動に関連するMovement related cortical potential(MRCP)や,予期や意欲,注意などに関連するContingent negative variation(CNV)のように事象に先行する内因性成分も同定できる.
また,これらの成分は,振幅や潜時,周波数解析等に加えて,ソース推定やMEGやfMRI等その他の非侵襲脳機能測定法を併用することによって責任部位までも指摘するようになった.したがって,内因性成分に反映されるさまざまな疾患や発達の診断や治療・経過の観察において,被検者の心身の負荷や安全性の点も鑑みると,改めて臨床応用の可能性は広がったといえる.そこでこのレクチャでは,検出したい脳機能や責任部位に注目して事象関連電位の各成分を概説する.