日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

アドバンスレクチャー

アドバンスレクチャー7

2020年11月27日(金) 08:00 〜 08:30 第3会場 (2F B-2)

座長:森岡 周(畿央大学 ニューロリハビリテーション研究センター)

[AL7-1] 経頭蓋直流電気刺激の臨床活用

佐伯覚, 蜂須賀明子 (産業医科大学 医学部 リハビリテーション医学講座)

1.はじめに
近年、非侵襲的大脳刺激法(NBS)を併用したリハビリテーション治療が脳卒中などを中心に各障害に対して用いられている。NBSの代表的なものとして経頭蓋磁気刺激(rTMS)と経頭蓋直流電気刺激(tDCS)がある。rTMSは時間および空間分解能が高く、目標とする大脳部位をピンポイントで刺激できるという利点があるものの、機器が高額であり、痙攣発作の誘発、刺激時のコイルの固定などの問題がある。一方、tDCSはrTMSに比べて時間および空間分解能は低いものの、安全性が高く安価で簡便な機器である。ここ数年ではtDCSに関する臨床研究が欧米で盛んに実施され関連文献数も飛躍的に増加している。我々は、脳卒中片麻痺上肢に対してtDCSを併用した片麻痺上肢集中訓練の効果について研究を進めており、一定の効果を確認している。本講演では、tDCSの基本となる刺激方法について、tDCSと他療法を併用した臨床活用例について紹介する。

2.tDCSの刺激方法
片麻痺上肢をターゲットとする場合、陽極と陰極のパッド電極を頭皮上の運動野直上と対側の眼窩上に置き、1~2mAの微弱電流を10~20分間通電する。刺激パラメータは、電流の極性、強度および刺激時間によって規定される。基礎的神経生理学研究から、直流は神経細胞の膜内外電位を変化させることにより、神経細胞の興奮性のレベルに影響を及ぼすことが明らかとなっている。陰極刺激(cathodal tDCS)の場合、すなわち陰極電極が神経細胞体あるいは樹状突起近くにあるとき、静止膜電位を低下させ神経細胞を過分極させ、刺激部位の神経細胞の活動を抑制する。一方、陽極刺激(anodal tDCS)の場合、陽極電極は静止膜電位および自発性神経細胞の放電率を増大することにより脱分極を生じ、刺激部位の神経細胞の活動を促進する。tDCSを十分な時間適用すると皮質機能は刺激の期間を超えて修飾される。通電時間の長さが、効果の持続時間に影響するとされ、5~10分間の刺激により1~5時間持続することが確認されている。

3.tDCSと他療法との併用
近年の多くの研究はtDCSなどのNBSの促通効果を強化するために、脳刺激と同時に末梢刺激を組み合わせることが多い。中枢と末梢の両者を同時に刺激することで相加/相乗効果が期待される。我々は、片麻痺上肢ロボット支援訓練機器や治療的電気刺激装置(随意運動介助型末梢性電気刺激装置)を組み合わせた併用訓練を実施している。また、その中でtDCSの反応の個人差に関して、脳由来神経栄養因子の遺伝子多型についても検討を進めている。

4.おわりに
tDCSは装着したまま訓練や運動が可能であり、その簡便性から臨床場面へ応用しやく、今後の発展が大いに期待される。