日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

アドバンスレクチャー

アドバンスレクチャー8

2020年11月27日(金) 09:50 〜 10:20 第3会場 (2F B-2)

座長:鎌田 恭輔(医療法人 恵み野病院 脳神経外科/ATR国際電気通信基礎技術研究所)

[AL8-2] 聴神経腫瘍・小脳橋角部腫瘍の術中神経生理モニタリング

河野道宏 (東京医科大学 脳神経外科)

聴神経腫瘍に対する手術において、術中脳神経モニタリングはきわめて重要である。術中モニタリングとしては、顔面神経モニタリング、聴覚機能モニタリング以外に三叉神経運動根モニターや、腫瘍が脳幹を圧迫している症例では脳幹機能モニタリングとして体性感覚誘発電位(SEP)や運動誘発電位(MEP)が適宜追加される。顔面神経機能保存を目的とした顔面神経モニタリングには、フリーランの顔面筋電図・随意的な電気刺激による誘発顔面筋電図・持続的な電気刺激による誘発顔面筋電図の3種類がある。フリーランは、顔面神経が物理的に刺激された場合に起こる顔面表情筋の自発筋電図を捉えるモニタリングで、自発筋電図はスピーカーを通して音として術者にフィードバックされる。臨床的意義は顔面神経が手術操作などによって物理的に刺激されたという事実が把握できることであるが、顔面神経機能が障害されたかどうかについての情報は得られにくいのが欠点である。顔面神経の随意刺激は、術者が必要と判断した時に術野で顔面神経に電気刺激を行い、誘発された顔面表情筋の筋電図を記録する方法である。プローブ型刺激電極を用いて電気刺激して顔面神経の位置を探したり、露出された神経が顔面神経であることを確認する際などに用いられる。当科では、プローブ型の電気刺激電極の他に、剥離子を電気化して刺激をしながら腫瘍と神経を剥離する方法を用いて作業を能率化している。随意刺激法の最大の弱点は、腫瘍切除中の顔面表情筋の反応の変化を持続的に観察することができないために、剥離操作中に顔面神経が障害を受けてもリアルタイムに把握できないことにある。持続顔面神経モニタリングは、持続的に顔面神経起始部に電極を留置して顔面神経を直接電気刺激し、誘発される筋電図波形を常に観察する方法である。このモニタリングの利点は、剥離操作中にもリアルタイムに顔面神経の障害を把握できることであり、臨床上きわめて有用である。本法の唯一の問題点は、医師または臨床検査技師が操作中に常駐し、モニターを連続監視しなければならないことである。持続顔面神経モニタリングをルーチーンに行うことにより、安全に効率よく腫瘍切除率を向上させることができ、安定した良好な成績をあげることが可能である。蝸牛神経のモニタリングとしては、汎用されている聴性脳幹反応(ABR)に加えてリアルタイムのモニターであるcochlear nerve action potentials(CNAP)は有用と考えられる。聴神経腫瘍の手術における術中モニタリングの実際を解説する。