[AL9-1] 術中VEPモニタリングの臨床的有用性
視覚路に関わる脳神経外科疾患では視機能の温存や改善が手術の重要な目的である。しかしながら、意に反し術後に視機能が悪化することも経験する。手術中に視機能の正確なモニタリングが施行できれば、視機能障害の回避が可能となり、術後の機能回復にも貢献できる。1970年代から光刺激による視覚誘発電位(visual evoked potential, 以下 VEP)の術中モニタリングが試みられてきたが、安定性に乏しく臨床的に有用とはいえなかった。そこで、新しい光刺激装置を作製し、網膜電図の同時記録を追加し、propofolを用いた全静脈麻酔を用いたところ、VEPの再現性は良好になり安定したモニタリングが可能となった。術中VEPモニタリングが有用な手術としては、眼窩内腫瘍、視神経・視交叉近傍腫瘍(経鼻経蝶形骨洞手術・開頭手術)、側頭葉・後頭葉腫瘍などである。血管病変としては視神経視交叉に関連する大型の内頚動脈瘤、前交通動脈などで、特に前床突起の削除や視神経管の開放を要するような症例で有用である。後大脳動脈の血流一時遮断時のモニタリングとしても使用できる。また、側頭葉・後頭葉の脳動静脈奇形・海綿状血管腫の手術でも有用である。これまでの経験では、VEPの振幅低下を来した手術操作は、視神経(眼窩内から頭蓋内)、視交叉、視索、側頭葉、後頭葉に至る視覚路の全長にわたっていた。それらの虚血や機械的障害をVEPの振幅低下として捉えることができ、手術にfeedbackすることにより術後の視機能障害を回避できた症例も多く経験した。術中VEPモニタリングは術後の視機能障害の防止ために有用な方法であると思われた。しかし一方では、術前から高度の視機能障害を認める症例ではモニタリングできない、振幅が残存しても完全な半盲をきたす、ほぼflatになっても視野障害は軽微である、などの限界も経験した。脳神経外手術における術中VEPの臨床的有用性について症例を提示して述べる。