[BL1-2] フィルタ、サンプリング周波数とナイキスト周波数
●はじめに:神経生理検査は神経や筋の活動を電気現象として捉え,生体の機能を推測し,診断や障害の評価,治療などへの役立てることを目的とする.しかし,得られるデータは技術に大きく依存し,信頼性の高いデータを得るには神経生理学のみならず,電気工学的な知識や技術も必要とされる.ノイズのない診断に耐えうる波形を導出するには,電流電圧の基礎からS/N比,静電誘導などの交流障害の除去,検査機器の構造では増幅器やフィルタ,周波数特性,A/D変換時のサンプリング周波数など,安全対策についてはアースの接地,マクロショック,ミクロショック,検査機器の型別分類など様々な知識を身につけておかなければならない.生体の電気信号を検出して計測する技術は細胞の活動を直接記録しているという特徴を有する.神経や筋から得られる電気信号は非常に微小で様々なノイズの中に埋もれており,これらを効率よく取り出して増幅し,必要な成分を抽出することが重要である.●フィルタ:アーチファクトなどの不要な周波数成分を取り除き,判読の精度を高めるためのもので,脳波計や筋電計には様々なフィルタが装備されている.主なフィルタは,低い周波数成分を取り除く低域遮断フィルタ,高い周波数成分を取り除く高域遮断フィルタ,交流障害を取り除くハム(AC)フィルタの3種類である.しかし,使用にあたってはそれぞれのフィルタ特性を理解し,適切な使用をしなければ大事な所見の見逃しや誤読する可能性がある.脳波計では,低域遮断周波数を時定数で表すため,標準的フィルタ条件は時定数0.3秒,高域遮断フィルタ60 Hz,ハムフィルタOFFで,この条件により脳波検査で必要とされる0.5~60 Hzの周波数の波形を記録することが可能となっている.●サンプリング周波数とナイキスト周波数:波形記録はサンプリング周波数の約1/3以下の周波数活動がほぼ正確に再生表示できる.サンプリング周波数は理論的に1/2の周波数活動が可能でナイキスト周波数と呼ぶが,実用的には1/3以下の周波数活動を使用するとよい.例えばサンプリング周波数が500 Hzとすれば,500÷3=166.7Hz以下の周波数活動の記録再生が可能となる.通常の脳波検査では,速波成分と筋電図波形を区別するためにサンプリング周波数は少なくとも200Hz以上が必要であり,その際には200÷3=66.7Hzまでの周波数の記録再生が可能となる.デジタル脳波計では波形の歪みを軽減するため A/D 変換前処理としてアンチエイリアシングフィルタが設定されており,サンプリング周波数の約 1/3周波数までがほぼ正確に描画および保存される.●おわりに:現在は機器性能もアップし,十分な初期設定がされており,機器設定の部分を触れることなく波形を導出することが可能であるが,電気生理検査を行う技術師として波形構築に関する必要最低限の知識習得は不可欠である.