日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

ベーシックレクチャー

ベーシックレクチャー12

2020年11月27日(金) 17:00 〜 17:30 第2会場 (2F B-1)

座長:久保田 有一(東京女子医科大学東医療センター 脳神経外科)

[BL12-1] 意識障害の脳波: 代謝性・中毒性脳症

下竹昭寛 (京都大学 医学部 脳神経内科)

意識障害の患者において代謝性脳症は比較的よく遭遇する病態である。治療により改善が見込めることから早期の診断と治療が重要である。急性期には画像上の変化を認めないことが多く、脳波はその診断と病勢の把握に有用である。代謝性脳症の脳波所見は、びまん性脳機能障害を示唆する脳波変化を呈する。意識障害の存在、程度と関係して、基礎律動・後頭部優位律動の徐波化や消失、θ波の増加、間欠的律動性または持続性高振幅の全般性δ活動を認めることが多く、三相波(Triphasic wave)のように特徴的な所見を呈する場合もある.脳波所見が変動を示すことも特徴の一つである。時にこの脳波変化は意識障害に先行することがあり診断,治療の一助となることがある.意識障害が進行し,昏睡から深昏睡へと意識レベルが低下すると,全汎性δ波から低電位となる。三相波は、陰-陽-陰の三相性からなり、高振幅の陽性波の前後にそれより小さな陰性波を伴う。 前頭優位のびまん性の周期性徐波(約1~2Hz)である。多くは左右対称性に同期して出現し,振幅は前頭部で高く、後方領域の方が前方領域に比べて時間の遅れがある(A-P delay)のが典型的な波形である。中等症の肝性脳症にみられることが多く、昏迷・昏睡状態では出現しない。肝性脳症に特異的な所見ではなく、腎性脳症、糖代謝異常、電解質異常など他の代謝性脳症でも出現する。波形はときに類似の波形(例えばA-P delayが明確ではない)を呈し、厳密な三相波の波形の特徴をそろえない場合は三相波様という表現にとどめる。全般性の棘徐波複合と区別が困難なことがしばしばあり、非けいれんてんかん重積(NCSE)の病態との鑑別を必要となる。この鑑別において三相波をより厳密な定義に基づいて脳波判読することは肝要である。中毒に伴う脳波所見も代謝性脳症の脳波と同様で様々であるが、中に周期性パターンを呈する場合がある。両側同期性の全般性周期性放電(Generalized Periodic Discharges(GPDs))を呈するものに、神経疾患ではCJDやSSPE,低酸素脳症などが知られるが、薬物関連では、炭酸リチウム、テオフィリンなどが挙げられ、さらにセフェピム脳症によるものが知られる。この場合も非けいれんてんかん重積との鑑別が求められる。バルビタール、ベンゾジアゼピン系薬物によりベータ昏睡、ときにアルファ昏睡脳波を呈することがある。代謝性・中毒性脳症において、脳波は原因検索においては必ずしも特異的な検査ではないが、特徴的な脳波所見を示す場合があり、非侵襲的に早期に病態把握ができ、繰り返し行うことで臨床経過の客観的な評価が可能であり、積極的に活用すべきである。