[BL13-2] 体性感覚誘発電位
体性感覚誘発電位(somatosensory evoked potentials, SEP)は,末梢感覚神経~脊髄~大脳皮質体性感覚野の各レベルの機能を評価する臨床検査である。ここでは正中神経を手首で刺激する上肢SEPを中心に述べたい。基準電極を刺激対側の肩や鎖骨部に置くと,手首刺激後およそ8-9 msに陰性頂点に達する陽-陰-陽の三相性電位(N9)が刺激同側の鎖骨上窩近傍から記録される(腕神経叢の活動電位起源)。頸部の前後に電極を配置すると,陽性P9電位に続いておよそ13 msでピークに達する反応(前頸部では陽性電位(P13),後頚部は陰性電位(N13))が記録できる(脊髄後角のシナプス後電位)。刺激後19 msには,刺激対側頭頂部で陰性電位(N20),前頭部Fzで陽性電位(P20)が記録される。この反応を記録するときに基準電極が対側肩/鎖骨の場合には,P9 - P11 - P14の陽性に振れるノッチが皮質のN20あるいはP20に先行する。先行するP9 とP11 は頭部全体(Fz,対側頭頂部,耳朶)に広く及ぶので基準電極を耳朶とすると,キャンセルされて不明瞭となり,(脳幹起源の)陽性P14電位とそれにつづく皮質のN20(対側頭頂部)とP20(Fz)が記録される。このようにSEPの各成分を同定するには導出法に工夫を凝らす必要がある。ここでP11は脊髄後索を上行するインパルスを反映するといわれているものの,明瞭な反応が正常被験者でも得られないこともあり,臨床で活用することはしばしば難しい。そこで,N13-P13電位の始まりからN20-P20電位の始まりまでの時間を計測する方法(中枢伝導時間)が推奨される。 臨床で脊髄後角が冒される病態(脊髄空洞症や炎症性病変)では,N13-P13電位の消失が観察される。後索病変で伝導ブロックや遅延が起きた場合には, P14 電位,N20-P20電位の遅延や振幅低下~消失が観察される。内側毛帯を巻き込む脳幹病変ではP14 電位の消失ついでN20-P20電位の低振幅化が生じる。視床VPL病変ではP14は存続するもののN20-P20電位の振幅低下~消失が観察される。体性感覚皮質を巻き込む病変では,やはりN20-P20電位の低下が起こりうる。低酸素脳症などで脳に不可逆的な変化が起きた場合には,両側性にN20-P20電位の消失を確認する必要がある。近年,N20-P20電位に重畳する600 Hzの高周波信号(high frequency oscillation, HFO)について,とくにN20 peak後の後半部分のHFOは感覚皮質内抑制系ニューロンの活動を表すことから,抗てんかん薬投与による変化などに注目が集まっている。講演ではup to date な話題にも触れたい。