[BL14-2] 神経筋超音波検査の臨床応用
超音波検査は簡便かつ非侵襲的に場所を選ばず(ベッドサイドでもどこでも)繰り返し行うことが可能である.神経筋疾患の種類や重症度により患者の体動困難,意識障害などで協力が得難い条件下でも検査の制限が小さい.近年の超音波診断装置の解像度やソフトウェアの向上から神経・筋組織の微細構造の描出が可能になったことで,様々な神経筋疾患に対し神経筋超音波検査が活用されている.神経筋超音波検査を行う上で見るべき対象はシンプルに神経と筋の2つに大別されるが,それぞれにポイントがある.神経においては,四肢の末梢神経,頚神経根,腕神経叢を描出することが可能である.末梢神経は正中,尺骨,橈骨神経を手首から腋窩までの長い範囲の観察を簡便に行うことができる.高周波プローブを用いれば手関節以遠まで各神経の分枝の走行が追跡可能となる.下肢は上肢に比し筋に厚みがあり,神経の全容を捉えにくいが,脛骨,腓骨,腓腹神経の評価が可能である.病的な神経は一般的に腫大し,エコー輝度が低下する(大きく,暗く見える)特徴がある.これらの変化は絞扼性ニューロパチー,炎症性ニューロパチー,シャルコー・マリー・トゥース病など病態が異なる疾患において広く認められる.正確なメカニズムは明らかではないが,水成分の増加(血管透過性の増加,神経軸索流の停滞,炎症,浮腫)が挙げられている.筋においては,筋炎,筋ジストロフィーなど筋の変性や萎縮を呈する疾患,筋サルコイドーシスなど筋内に結節を形成する疾患に有用である.筋炎は最近,筋病理,自己抗体の知見から分類が増えてきている.筋超音波画像の研究が進むことで,これらの診断への応用が期待される.封入体筋炎においては,すでに超音波検査で深指屈筋と尺側手根屈筋との間,腓腹筋とヒラメ筋との間に輝度の差が見られることが知られ,診断の一助となっている.神経筋超音波の臨床応用には枚挙に暇がない.神経疾患も筋疾患もその診断を病理診断に委ねることが少なくないが,超音波検査を用いた神経,筋の解剖部位ならびに詳細な異常部位の同定により,適正な生検部位決定をその場で容易にする.また動的評価も超音波検査の強みであり,症状誘発肢位を取りながら末梢神経を観察することが責任病巣の同定に,筋線維束収縮を短時間で全身を広範囲に観察することが筋萎縮性側索硬化症の診断感度の向上に役立つ.さらに神経・筋に対する超音波検査での形態評価と,神経伝導検査・針筋電図での機能評価を併せて行うメリットは大きく,両検査の組み合わせがスタンダードになりつつある.本セッションではこれから神経超音波検査に触れて学ぶ人,興味を持ってもらえる人が1人でも多くなることを願い,日頃の臨床において神経筋超音波が診断に役立った症例の数々を紹介したい.