50th Memorial Annual Meeting of Japanese Society of Clinical Neurophysiology (JSCN)

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ベーシックレクチャー

ベーシックレクチャー15

Sat. Nov 28, 2020 11:00 AM - 11:30 AM 第3会場 (2F B-2)

座長:目崎 高広(榊原白鳳病院 脳神経内科)

[BL15-1] 表面筋電図

金子文成 (慶應義塾大学 医学部 リハビリテーション医学教室)

表面筋電図(surface electromyography: sEMG)は、筋肉上の皮膚面に貼付した表面電極で筋収縮に伴う電位差を増幅記録し、筋活動を計測する方法である。ノイズを減らすために、皮膚前処理剤等を使用して電極貼付部位の皮膚抵抗を5kΩ以下に落とし、テープでしっかりと固定する。フィルターは、筋電信号の周波数帯域をカバーするよう適切に設定する。500Hzで記録した高周波成分の信号をAD変換する際には、その2倍以上のサンプリング数がないと本来の信号とは異なる周波数成分(折り返し雑音:Aliasing)が現れるため、サンプリングは1,000Hz以上とする)サンプリング定理)。
sEMGの振幅は、運動単位の動員と発射頻度、すなわち筋活動に参加する筋線維数と活動電位の頻度で決まる。筋活動電位は神経筋接合部(neuromuscular junction:NMJ)から双方向へと伝播し、これを筋腹上に置いた2つの電極間の電位差として捉えることから、記録電極の貼付部位と電極間距離が振幅に影響を及ぼす。NMJの直上部を挟んで位相が逆転するため、NMJ近傍ではプラス電位とマイナス電位とが打ち消しあって振幅は低下する。その低下は70%にも及ぶことから、NMJを避けて電極を貼付する必要があり、筋腹中央より遠位部での貼付が推奨される。関節運動を伴う場合にはNMJの位置が皮下で移動すること、前腕では電極下にある筋肉そのものが変わってしまうことがあることを想定して、課題や電極の貼付部位を決定する。精密にNMJと電極との位置関係を知るには、多点電極を使用することが勧められる。また、電極間距離が長いと隣接する筋や拮抗筋からの活動電位が混入(cross-talk)しやすくなる。目的に合わせて適切に設定し、一定の長さに決めて計測することが重要になる。また、電極の形状によってもcross-talkの量は異なり、棒状電極の方が低いとされている。双極電極が一体化されて距離を固定した電極が市販されている。
sEMGは運動を筋活動レベルで非侵襲的に長時間評価できることから、運動解析に基づく治療方針の決定に繁用される。筋電信号の振幅は、運動単位の発火頻度と同期化(synchronization)に伴って生じる位相相殺や筋線維分布に影響される。一方で、活動電位の増加は筋出力を発揮しようとする‘neural drive’を反映することから、これを数値化するために振幅(平均整流化振幅値あるいは実効値)や面積(積分値)が振幅関連指標として算出される。筋出力と振幅値との関係は筋によって異なるため、筋電図から筋出力を推定する場合には注意が必要である。その他の解析手法には、表面筋電図の時系列データを構成周波数成分に分解して周波数特性を捉えるパワースペクトラム解析がある。関節運動の変化や運動の位相との関係を同定して、収縮様式や運動学的役割を捉える筋活動パターン解析では、多関節運動の自由度制御に機能している構成成分(motor module)を抽出する方法が適用されるようになってきている。