50th Memorial Annual Meeting of Japanese Society of Clinical Neurophysiology (JSCN)

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ベーシックレクチャー

ベーシックレクチャー15

Sat. Nov 28, 2020 11:30 AM - 12:00 PM 第3会場 (2F B-2)

座長:金子 文成(慶應義塾大学 医学部 リハビリテーション医学教室)

[BL15-2] ジストニアのボツリヌス治療

目崎高広 (榊原白鳳病院 脳神経内科)

ジストニアは中枢性運動制御異常の表現形であり、通常の病型では骨格筋の緊張亢進による異常姿勢または異常運動を来す。局所性ジストニアではボツリヌス治療が有効であるが、日本でボツリヌス毒素製剤の効能・効果が認められている病態は、眼瞼痙攣、痙性斜頸、痙攣性発声障害のみである。本講演では次の諸点について解説する。
1. 超音波検査の有用性
2. 開瞼失行は対象になるか
3. いわゆる「首下がり症候群」は対象になるか
4. 側彎は対象になるか
痙縮と異なり、痙性斜頸ではモニタを用いず、触診による筋同定のみで治療されることが多い。しかし深部筋や近傍に神経主幹や大血管がある筋では超音波で筋周辺を視覚化することが望ましい。とりわけ回旋において胸鎖乳突筋に次いで強力な下頭斜筋では、深さと厚さに個人差が大きいこと、深部に椎骨動脈があり貫通が危険であること、筋表面に後頭動脈を認める場合があることから、超音波での視認が必須である。また後屈、sagittal shiftによる頭部前方偏倚、および頭部no-no型振戦の原因筋でもあり、これらにおいては両側へ注射する。一方、頭最長筋は側屈の重要な筋であり、側屈の明らかな例では屈側で筋厚の増加が認められる。体表面からの同定は難しいので超音波モニタ下での注射が望ましい。側屈のほか後屈、sagittal shiftによる頭部前方偏倚の原因筋でもあり、後者において下頭斜筋とともに注射することで一層の改善を認めた自験例がある。なお超音波はモニタとして利用する以前に、治療前の筋厚やその左右比較により、治療の要否・用量を決定するための重要な「検査」であることから、検査として保険請求することは当然であり、米国ではMedicareでも請求を認めている。一部の支払基金が支払いを拒否しているのは見識の欠如であり医療の恥である。
開瞼失行(開眼失行)は上眼瞼挙筋の駆動不全により開瞼困難を呈する局所性ジストニアであり、眼瞼痙攣としばしば並存する。真の開瞼失行では筋緊張亢進を認めず、ボツリヌス治療の効果は期待し難い。しかし実際には瞼板前部型眼瞼痙攣であることが多く、両者の区別が日常診療では困難であるため、治療を試みる意義がある。一方でジストニア性「首下がり症候群」は痙性斜頸の病型として知られるものの、多くは開瞼失行と同じく筋緊張亢進を認めず、ボツリヌス毒素により頭部前屈の悪化を来しやすいため、筆者は鎮痛目的以外ではボツリヌス治療を行なっていない。また痙性斜頸に含めて治療できるジストニア性側彎は、ボツリヌス治療の有用性を疑う報告がある。しかしそれは方法が誤っている。脊椎棘突起の傍にある隆起部に注射しても改善は期待できない。最長筋・腸肋筋の筋腹部分への注射が有用である。