日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

ベーシックレクチャー

ベーシックレクチャー2

2020年11月26日(木) 09:55 〜 10:25 第3会場 (2F B-2)

座長:神林 隆道(帝京大学医学部脳神経内科)

[BL2-2] CMAP、SNAPの成り立ち、波形の判定

津田笑子 (札幌しらかば台病院 脳神経内科)

神経伝導検査(NCS)では,末梢神経障害の有無だけでなく,病理(軸索変性・脱髄),分布,重症度など多くの情報を得ることができる.そして,それらの情報は病因・病態の特定や臨床診断に寄与し,予後の推定に役立つと考えられる.NCSでは,単に伝導速度が正常か異常かを判定するだけではなく,その波形の意味を解釈することが重要である.NCSの結果を総合的に判定するためには,電気生理学の理解が欠かせない.CMAPやSNAPは探査電極直下の複数の活動電位の総和=複合活動電位であり,それらの波形の成り立ちを理解することは検査結果の正しい解釈に欠かせないばかりでなく,多彩な技術的問題やピットフォールを理解する上でも役立つと考えられる.CMAPは2相性の波形で,潜時は刺激から陰性相の立ち上がりまでの時間,振幅は基線と陰性相のピーク間を測定する.CMAPの遠位潜時には神経伝導のみならず神経筋伝達や筋線維伝播の時間も含まれるため遠位潜時から最遠位部の伝導速度を計算することはできない.最遠位部の伝導は刺激電極と探査電極の距離を一定にした上で,遠位潜時で評価する.ただし,CMAPが初期陽性波で構成されると遠位潜時の評価が困難になることがある.この波形変化を理解するためには容積伝導という知識が必要である.生体において記録する電極と実際に生じている興奮の間に他の生体組織が介在するためCMAPの場合は興奮が始まるmotor point直上に探査電極があれば陰性相から始まる2相波が記録されるが,探査電極がmotor pointからずれると3相波となり陰性波の直前に,いわゆる初期陽性波を認める.2相波を記録するためには探査電極の貼り直しが必要となる.SNAPの波形は刺激電極と探査電極の距離によって大きく変化する.その波形変化の電気生理学的な要因として,生理的な時間的分散の増大と位相相殺が挙げられる.もともと直径の異なる神経線維には伝導速度のばらつきがあるため,健常者でも刺激―記録電極間の距離が長くなるほど複合活動電位の時間的分散の増大を認める.また,複合活動電位を構成する個々の電位の持続時間や潜時のばらつき具合によって電位の位相相殺が生じるため,総和である複合活動電位の振幅が小さくなる.軸索変性の主なNCS所見として複合活動電位の振幅低下が挙げられるが,脱髄でも神経伝導の同期性の低下によって振幅は低下する.逆に,脱髄の主なNCS所見として神経伝導速度の低下が挙げられるが,軸索変性でも大径有髄神経の脱落により神経伝導速度は低下しうる.CMAP,SNAPの成り立ちを正しく理解し,それを波形の判定に活用することによって,より臨床に役立つ検査を目指したい.