[BL5-1] 頚椎部圧迫性脊髄症の電気生理
頚椎部圧迫性脊髄症(CCM)の神経所見による診断は時に困難である。理由には従来の神経所見は高位診断であって横断像での圧迫形態を考慮されていない点がある。圧迫形態による神経所見の異なりは容易に想像がつくため圧迫形態別に詳しい神経所見を知ることは重要である。CCMに対する電気生理学の醍醐味は神経所見と電気生理所見の一致にあると考えている。A.術前とB.術中電気生理検査で分かることについて述べる。A.中枢運動伝導時間(CMCT)は皮質脊髄路障害の有無を診断できる。主にC8支配の小指外転筋(ADM)を用いたCMCT-ADMはC5/6より中枢の障害、主にT1支配の短母指外転筋(APB)を用いたCMCT-APBはC6/7障害を診断できる。また、主にS2,3支配の母趾外転筋(AH)を用いたCMCT-AHを計測し、胸椎部CMCT=(CMCT-AH)-(CMCT-ADM)を算出すると、この遷延程度で術後成績が予測できる。B.CCMがどのように進展するかC4/5障害をモデルとして神経所見、脊髄誘発電位(SCEP)とMRIを用いて検討した。術中に4種類のSCEPとMRIでC4/5障害であった36例、年齢68.7歳を対象として神経所見とSCEP所見を対比し検討した。神経所見:皮質脊髄路障害は上腕三頭筋反射(TTR)の亢進,楔状束障害はC7領域のしびれ、薄束障害は下肢触覚障害、後角(4.5層)障害はC6領域の触覚障害、後角(1.2層)障害はC6領域の痛覚障害を用いた。4種類のSCEP:1.尺骨神経刺激(UN)によるSCEP: UN-SCEP、2.経頭蓋電気刺激(TCE)によるSCEP: TCE-SCEP、3.正中神経刺激(MN)によるSCEP:MN-SCEP、4.脊髄刺激(SC)によるSCEP: SC-SCEPを用いた。MN-SCEPは後角(C6領域の触覚)、UN-SCEPは楔状束(C7領域のしびれ)、TCE-SCEPは皮質脊髄路(TTR↑),SC-SCEPは薄束(下肢の触覚)の障害に対応する。痛覚は、SCEPで評価できない。脊髄圧迫形態はMRI横断像で片側圧迫型、中央圧迫型、広範圧迫型と分類不能にした。【結果】SCEP低下出現頻度はUN-SCEP100%,TCE-SCEP94.4%, MN-SCEP77.8%,SC-SCEP69.4%であった。神経所見異常は、しびれ100%、痛覚97.2%、TTR91.7%、触覚83.3%、下肢触覚70.0%の順であった。脊髄圧迫形態は、広範圧迫型26例、中央圧迫型6例、片側圧迫型2例、分類不能2例であった。A type(2例): UN-SCEPのみ低下,B type(4例): A type+TCE-SCEP低下、C1 type(5例): B type+MN-SCEP低下, C2 type(2例): B type +SC-SCEP低下, D type(23例): すべてのSCEP低下とした。広範圧迫型ではSCEPは楔状束、皮質脊髄路、後角(4.5層)、薄束の順に、神経所見はしびれ、C6領域の痛覚、TTR亢進、C6領域の触覚、最後に下肢触覚の順に、つまりB type, C1, D の順に障害が進行した。中央圧迫型ではSCEPは楔状束、皮質脊髄路、薄束、後角の順に、神経所見はしびれ、C6領域の痛覚、TTR亢進、下肢触覚、最後にC6領域の触覚の順に、」つまりA type, B , C2 , Dの順に障害が進行した。脊髄圧迫形態で障害のされ方は異なった。