日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

ベーシックレクチャー

ベーシックレクチャー6

2020年11月26日(木) 15:20 〜 15:50 第3会場 (2F B-2)

座長:安藤 宗治(関西医科大学整形外科)

[BL6-1] 運動系の術中脊髄モニタリング

吉田剛 (浜松医科大学 整形外科)

運動系の術中脊髄モニタリングとして経頭蓋大脳電気刺激・筋誘発電位、経頭蓋大脳電気刺激・脊髄誘発電位、経咽頭刺激・脊髄誘発電位などがある。本講演では経頭蓋大脳電気刺激・筋誘発電位(以下Br-MEP)について、その適応や方法、モニタリング波形やアラームポイントの理解、疾患毎のレスキュー操作、更にBr-MEPに特有な有害事象について解説する。脊椎脊髄手術の中でも脊柱変形矯正手術、脊髄腫瘍摘出術、脊柱靱帯骨化症手術などは本電位を利用したモニタリングのよい適応である。てんかんの既往歴は禁忌ではないが十分に注意する。ペースメーカー、植え込み型除細動器、人工内耳留置患者では電気刺激が機器に影響を及ぼすおそれがあるためBr-MEPは相対禁忌である。乳幼児では刺激条件に十分配慮する。術中に経頭蓋大脳電気刺激を加えることによる体動や咬傷などの合併症も生じうる。本電位はanesthetic fadeが生じることがしばしばあり真陽性との鑑別が問題となる。麻酔維持にはプロポフォールとオピオイドによる静脈麻酔が良く用いられる。良好なベースライン波形が得られれば吸入麻酔薬(セボフルランまたはデスフルラン)を用いることも可能である。刺激条件は5連発刺激をtrain刺激とし、刺激間隔2.5 msec,強度200 mA,時間0.5 msec,加算回数4~10回とする。成人では200mAまたは400~500Vの刺激を行う。一方小児では刺激強度をやや低くし、train回数を増やした方が安定した波形の導出が可能である。記録は四肢のkey muscleよりモニター筋を選択するが,四肢の遠位筋を選択することが望ましい。アラームポイントは振幅の不可逆的な50-90%以上の低下あるいは波形消失とするなど様々で統一されておらず、他に振幅以外の波形変化に注意すべきとの意見もある。日本脊椎脊髄病学会モニタリングワーキンググループでは多施設前向き研究での結果よりコントロール波形の振幅70%以上の低下をアラームポイントと設定している。アラームが生じた場合には、手術に起因し脊髄障害を生じた真陽性か、麻酔深度や血圧、モニタリング機器に起因した偽陽性かの判別が求められる。髄節障害や神経根障害では理論上1筋での選択的障害も存在しうるが他のモダリティとの整合性も考慮する。波形がアラームポイントに達した場合、まず術者にアラームを発する。麻酔深度や血圧、モニタリング機器の問題など偽陽性が否定でき、手術操作の影響が疑われる場合、矯正の解除、スクリュー抜去など波形変化前の操作まで手術手技を戻し手術を一時中断する。レスキュー操作として追加除圧、脊椎短縮量、脊椎アライメントの調節などを行う。再度波形導出を試み、アラームが解除されれば手術を再開する。振幅の回復が見られない場合は神経障害を強く疑い、再度のレスキュー操作、ステロイド、マンニトールなどの脊髄保護の対策を講じたのちに手術の継続について協議する。