[BL8-1] 針筋電図:随意収縮時活動 -動員に関して-
随意収縮時針筋電図は,評価が主観的になりやすいこともあり,信頼性が低いと思われることもある.そのため安静時活動のみの評価を重要視する施設もあるが,正しく行なえば随意収縮からは多くの情報が入手できる.評価前に行なうべきことは,筋を正しく同定すること,筋に正しく力を入れさせること,運動点を確認すること,大まかな筋力低下の程度を把握することである.安静時活動評価が終了後,一旦皮下まで針先を戻し,等尺性に軽く力を入れさせた筋の収縮を確認しながら,再び筋膜を貫き電極を進め,2~3種類の急峻な立ち上がりの運動単位電位を捕捉する.運動単位電位の波形に注目する前に,その発火パターンを評価する.一般的な条件下では,電極のuptake areaが直径5 mmの半球相当であることを念頭に,筋全体の電気活動の一部をサンプリングしていることを意識する.弱収縮から中等度収縮時の運動単位の動員パターンを,徒手筋力テストという強収縮時の評価と対比させながら,筋全体として運動単位数が減少しているかどうかを検証する.筋による違いはあるが,一般的にはじめに動員される運動単位電位の発火頻度は5~7Hzで,1~2種類が同定できることが多い.収縮力の上昇に伴って発火頻度が上昇し,はじめの運動単位電位の発火頻度が12~15Hzを超える前に次の運動単位が動員されてくる.運動単位数が減少していると,新たな運動単位電位が動員されてこないために,はじめの運動単位電位の発火頻度がさらに上昇する(high firing rate).力に比して,動員されてくる運動単位電位の種類が少ない場合,reduced recruitmentと評価し,神経原性変化の存在が示唆される.運動単位電位の波形が正常であれば急性の,再生電位であれば慢性の神経原性変化が疑われる.一方で,運動単位電位の種類や発火頻度の上昇と動員の関係に偏りがないにもかかわらず,出力される力に比して,多くの種類の運動単位電位が見られる場合,一つ一つの運動単位の起電力が減少していることが示唆され,rapid recruitmentと評価される.運動単位数は保たれるものの筋線維数が減少あるいは萎縮して筋力が低下する筋原性変化が示唆される.動員の評価はサイズの原理(弱収縮では小さな運動単位が動員され,強収縮では大きな運動単位が動員される)や,被検筋の特性(脳神経支配筋や前腕伸筋群は発火頻度が早い,等)を考慮しながら,運動単位電位の波形そのものにとらわれすぎず,パターン認識として修得していくほかない.軽度の運動単位数減少では,最初に動員された運動単位電位の発火頻度の上昇だけが目立つ所見であることも珍しくない.運動単位電位の波形に関しては,振幅,持続時間,相など評価項目がおおいが,針先と電位発生源との関係に大きく依存するため,動員の評価を修得してから着目する様にしたい.