[CSP1-2] ギラン・バレー症候群とCIDPにおける新規自己抗体とミエリンの超微細構造
末梢神経障害(ニューロパチー)は様々な原因で生じることが知られており,免疫性の機序が関与するものも数多く存在する.これらの,いわゆる免疫性ニューロパチーの代表的疾患はギラン・バレー症候群(GBS)と慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)であり,1970年代に電子顕微鏡を用いた検討によって一見正常な構造のミエリンをマクロファージが積極的に貪食していることが報告されて以来,マクロファージによる脱髄が病態に重要な役割を果たすと考えられてきた.その後の研究でGBSにはマクロファージによる脱髄像がみられない軸索型の病型、すなわち急性運動性軸索型ニューロパチー(AMAN)が存在することが明らかになり,この病型では感染を契機に産生された自己抗体が末梢神経のランビエ絞輪部軸索膜に存在するGM1に結合し,補体を活性化することによって神経障害が惹起されることが示された.一方,古典的な脱髄型のGBS,すなわち急性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(AIDP)とCIDPの病態は長い間明らかにされてこなかった.腓腹神経生検の縦断像での検討では,マクロファージによるミエリン病変はAIDP,CIDPともに絞輪間部に多い例とランビエ絞輪部周辺に多い例があり,症例によって偏在していることが示されている.このことからAIDPとCIDPにおいては,マクロファージは有髄線維における特定の部位を認識してミエリンの貪食を開始しており,認識される部位は症例によって異なることが示唆される.AIDPの免疫染色による検討では,ミエリン病変の偏在と一致して補体の沈着が示されており,何らかの自己抗体を介した病態がマクロファージによる髄鞘貪食に関与していると推測されるが,現在までのところ特定の自己抗体とマクロファージによる脱髄との直接的な関連は示されていない.CIDPにおいても,ミエリンの構成成分であるガングリオシドの一種であるLM1に対する抗体陽性例で補体の沈着とマクロファージによる脱髄像が示されているものの,既知の自己抗体は陰性の例が多く,マクロファージに関連した病態は十分には明らかになっていない.一方,近年,傍絞輪部のミエリン・軸索間の接着分子であるneurofascin 155やcontactin 1などに対する抗体が陽性のCIDP患者が報告されており,このような患者では傍絞輪部への自己抗体の沈着に伴うミエリン終末ループの軸索からの離開が伝導障害を惹起しており,古典的なマクロファージによる脱髄とは異なる病態が存在することが明らかになっている.本日は,このような観点から最近得られたGBSとCIDPの自己抗体とミエリンの超微細構造に関する知見について概説する.