[CSP1-4] 神経伝導の安全因子と脱髄
ギラン・バレー症候群(GBS)、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)では神経伝導ブロックが臨床症状(筋力低下、感覚低下)を惹起する。有髄神経における跳躍伝導はランビエ絞輪におけるNaチャネルの局在と髄鞘による絶縁によって成立している。一つの絞輪部において脱分極が起こると、一斉に電位依存性Naチャネルが開口して内向きのNa電流が活動電位を発生し、活動電位は次の絞輪部に向かい、そこでNaチャネルを開口させることにより新たな活動電位を発生する。神経伝導の安全因子は「駆動電流/Naチャネルの開口閾値」と定義される。すなわち隣の絞輪部で生じた活動電位による駆動電流が次の絞輪におけるNaチャネルの閾値より大きければ(安全因子>1.0)であれば新たに活動電位が発生して跳躍伝導が起こる。脱髄性GBSとCIDPにおける形態学的変化は脱髄であり、髄鞘による絶縁が障害されると駆動電流は散逸し、安全因子の分子が低下して1.0を下回った時点で活動電位の発生は停止する。これが古典的な脱髄性伝導ブロックである。両疾患ともおそらくは髄鞘あるいはシュワン細胞膜のエピトープに対する自己抗体によって脱髄が生じ、抗体の特性とエピトープの発現部位により絞輪間部、傍絞輪部において異なったタイプの脱髄を惹起して伝導ブロックを起こす。一方、軸索型GBSでは絞輪のNaチャネルの局在を変化させて安全因子の分母にも影響する。本講演では生物学・免疫学的な病態の差異によりやや機序が異なる伝導ブロックが起こる理論的背景について概説する。