日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

関連学会合同シンポジウム

関連学会合同シンポジウム12 片頭痛の病態生理研究の新展開 (日本頭痛学会)

2020年11月27日(金) 13:15 〜 15:30 第4会場 (1F C-1)

座長:目崎 高広(榊原白鳳病院 脳神経内科)、竹島 多賀夫(富永病院脳神経内科・頭痛センター)

[CSP12-1] 片頭痛の病態生理の新展開

平田幸一 (獨協医科大学)

 片頭痛は日本での年間有病率が8.4%と推定される,いわばcommon diseaseである.しかし,たかが頭痛という言葉に反してわが国の片頭痛患者の約5人に1人が重篤な症状のために日常生活や社会的,経済的をもたらす疾患であることはあまり知られていない.
 片頭痛の基本的な病態生理としては三叉神経血管説が知られており,これは知覚受容伝達ニューロンである三叉神経へのなんらかの刺激により,三叉神経血管系が活性化すると,硬膜あるいは髄膜の血管周囲に分布する三叉神経終末からCGRP, substance Pなどの神経ペプチドが放出され,神経性炎症と血管拡張を生じることに始まる.その結果,血管周囲に分布する三叉神経の侵害受容求心線維を介し,疼痛刺激が脳幹の三叉神経尾側核に伝えられ,その後,視床,大脳皮質へと送られていく.三叉神経尾側核の神経細胞の活性化は,疼痛刺激を単に大脳へ伝えるだけでなく,弧束核のような周辺の自律神経の神経核を刺激し,悪心や嘔吐を生じさせる.しかし,慢性の難治性片頭痛は,この説では説明のできない,めまいやしびれなどやうつなどの随伴症状を併発し,繰り返す発作のため生活の質を大きく妨げ,登校拒否,離職や家庭生活を続行することを困難とし,本人の生活のみでなく社会の生産性を大きく損なうことが問題となっている.この原因として中枢神経系の感作状態と言われる状況が存在することが知られるようになった.
 中枢神経感作とは体性感覚系の変化に伴う痛覚系・痛覚経路の異常であり,種々の疼痛性疾患における痛みの強さや特徴を変調させている可能性がある.中枢神経感作は,病状や損傷に不釣り合いな重度の痛みとそれに関連した障害,および広汎な痛みの分布,アロデニア(異痛症),感覚過敏,さらには筋骨格系と関連しない感覚の過敏という特徴を有する.正常の感覚伝達では,無髄C線維の痛覚,有髄Aβ線維の圧覚はそれぞれ中枢へ別に伝達され,交差しない.一方,中枢神経感作のある状況下では末梢から中枢への感覚系への伝達の変化,痛みに対する中枢での感受性の変化が生じる.具体的にはシナプス効率の増加,下降抑制系の減弱により侵害刺激に対する中枢での痛みが増幅し,感覚過敏を生じる.軽い触覚刺激では,通常交差しない疼痛経路を活性化させアロデニアを生じさす.
本発表では電気生理学的な研究結果を含め報告する.