[CSP12-5] 片頭痛治療における非侵襲的ニューロモデュレーション
片頭痛は身体面,心理面,社会的側面に広く機能障害を生じうる支障度の高い疾患であるが,予防薬による治療では効果が限定的であったり,副作用で継続困難になったりする場合がある.一方,非侵襲的ニューロモデュレーションは神経に微弱な電気刺激や磁気刺激を与えて疼痛調節を行う治療法であり,代表的なデバイスに経頭蓋磁気刺激法(TMS),経頭蓋眼窩上神経刺激(tSNS),非侵襲迷走神経刺激(nVNS)がある.TMSは磁場の変化を用いて大脳皮質に電流を誘起させる.動物モデルではTMSは大脳皮質拡延性抑制とnociceptive trigemino-thalamic neuronsを抑制することが示されている.前兆を伴う片頭痛267人に対する急性期治療効果を検討したRCTでは,2時間後の頭痛消失率はsham群の22%に比して実治療群で39%と高率であった.有害事象として数%で頭痛などの副作用が報告されている.tSNS(Cefaly)は両側上眼窩神経を介した三叉神経に対する経皮的電気刺激装置である.月に2回以上の発作を有する片頭痛67人に対する予防効果を検討したRCTでは,治療3か月後に実治療群で片頭痛日数が30%減少したが,sham群では変化がなかった.作用機序として,鎮静効果およびペインマトリクス活動性変化が推定されている.有害事象として少数例で疼痛,眠気,倦怠感,頭痛,一過性の皮膚アレルギーなどが報告されている.わが国の4つの頭痛診療施設で行った検討では,100人の片頭痛患者に対して毎日20分間のCefaly治療を12週間行ったところ,4週あたりの片頭痛日数は8.16日から6.84日に有意に減少した.少数例で眠気,刺激部位の不快などを認めたが,重篤な有害事象を認めなかった.このことからCefalyは日本人に対しても有効で安全な治療法と考えられた.nVNS(gammaGore)は経皮的に迷走神経頸枝を刺激する.迷走神経刺激により延髄孤束核(NTS)が刺激されGABAなどの抑制系神経伝達物質が放出され,三叉神経脊髄路核尾側亜核(TNC)からのグルタミン放出が低下し疼痛知覚がブロックされるとされる.59例の慢性片頭痛症例をnVNS群とSham群にランダム化し,2カ月間の盲検期後に6カ月のオープン試験を行い頭痛予防効果について検討したところ,8カ月後にnVNS群で全試験期間を完了した15例ではベースラインより頭痛日数が3.6日減少した.有害事象として,少数例で局所不快感、筋強直、倦怠感、動悸、頸部筋強直などが報告されている.非侵襲的ニューロモデュレーションは,手術に伴う合併症がなく,安全で価格も比較的安価であることから,今後の新たな片頭痛治療選択枝の一つとして期待されている.