日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

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関連学会合同シンポジウム

関連学会合同シンポジウム16 神経痛性筋萎縮症(NA):新しい概念を巡って (日本末梢神経学会)

2020年11月27日(金) 15:00 〜 16:30 第5会場 (1F C-2)

座長:園生 雅弘(帝京大学医学部脳神経内科)、加藤 博之(信州大学医学部附属病院 整形外科/流山中央病院 手肘・上肢外科センター)

[CSP16-3] 特発性前骨間神経麻痺と特発性後骨間神経麻痺の特徴 -前向き全国多施設臨床研究(iNPS-JAPAN)の結果から-

加藤博之1,2, 越智健介3 (1.信州大学医学部附属病院 整形外科, 2.流山中央病院 手肘・上肢外科センター, 3.東邦大学医学部 自然・生命・人間先端医学講座(額田医学生物学研究所))

【背景と目的】 特発性前骨間神経麻痺(spontaneous anterior interosseous nerve palsy; 特発性AIN麻痺)および特発性後骨間神経麻痺(spontaneous posterior interosseous nerve palsy; 特発性PIN麻痺)はいずれも1)突然発症することが多い、2)発症前に誘因事象があることが多い、3)前駆痛を伴うことが多い、4)感覚障害がないことが多い、5)自然回復することが多い、6)責任神経束に「くびれ」がみられることが多い、といった特徴をもつ原因不明の末梢神経麻痺であり、その病態や適切な治療法はいまだに不明である[1, 2]。その最大の原因は、両麻痺が稀であるために共通の評価基準を満たした症例が不足していたことにあると考え、2011年より全国多施設共同研究(interosseous nerve palsy study JAPAN; iNPS-JAPAN)を行ってきた。2017年に新規症例登録は終了し、現在は登録症例の分析を行っている。本発表では、iNPS-JAPANから明らかになってきた両麻痺の特徴について概説する。
【結果】 全国の33施設から特発性AIN麻痺120肢、特発性PIN麻痺76肢が登録された。症例登録時の平均は順に発症時年齢:47.5歳/ 50.0歳、男性率:52.6%/ 65.3%、右罹患率:39.7%/ 44.4%、右利き率:93.6%/ 92.2%、発症後受診までの期間:2.6か月/ 2.5か月、前駆痛を有する率:79.2%/ 68.4%、誘引事象を有する率:52.6% / 45.8%、特発性AIN麻痺では長野I型(AIN支配筋のみ麻痺)率:52.7%、完全麻痺率:23.7%/ 52.9%、くびれ発見率は76%/58%であった。簡易型McGill質問票により、前駆痛は単純な神経障害性疼痛ではなく混合性疼痛であることが示唆された。
【考察】 今回の結果から、1)両麻痺の臨床像はNeuralgic amyotrophy(NA)に近いこと、2)肩甲帯のNAに比して、前駆痛の出現率が低いこと、3)両麻痺の過半数に神経束のくびれがみられること、などが明らかになった。両麻痺とNAをどのように理解していくべきか、今後検討を重ねる必要があることが示唆された。
【引用文献】
1. Nagano A. Spontaneous anterior interosseous nerve palsy. J Bone Joint Surg Br. 2003; 85: 313-8.
2. Ochi K, Horiuchi Y, et al. Surgical treatment of spontaneous posterior interosseous nerve palsy: a retrospective study of 50 cases. J Bone Joint Surg Br. 2011; 93: 217-22.
3. Komatsu M, Nukada H, Ochi K, Kato H, et al. Pathological findings of hourglass-like constriction in spontaneous posterior interosseous nerve palsy. J Hand Surg Am. 2020; Mar 6; S0363-5023(20)30005-8.