日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

関連学会合同シンポジウム

関連学会合同シンポジウム16 神経痛性筋萎縮症(NA):新しい概念を巡って (日本末梢神経学会)

2020年11月27日(金) 15:00 〜 16:30 第5会場 (1F C-2)

座長:園生 雅弘(帝京大学医学部脳神経内科)、加藤 博之(信州大学医学部附属病院 整形外科/流山中央病院 手肘・上肢外科センター)

[CSP16-4] 神経痛性筋萎縮症と神経炎 -神経伝導検査による鑑別-

関口兼司 (神戸大学大学院医学研究科 脳神経内科)

2017年Ferranteらは神経痛性筋萎縮症(neuralgic amyotrophy:NA)と臨床診断された281例について,真の障害部位がどこであったかを筋電図検査結果から詳細に再検討した.その結果最も障害頻度が多かった神経は肩甲上神経をはじめとした単一の運動神経枝であり,鎖骨上部の腕神経叢が責任病巣であると確定しえた症例はわずか4例であった.同年ArAnyiらは超音波で,翌年SneagらはMRIで,それぞれNAの障害部位が腕神経叢外にあることを報告した.以後,NAの概念は古典的な「腕神経叢炎」から「多発性単神経炎」であるとの見方が一般的となってきた.免疫異常や炎症による多発性単神経炎の病態と言えば血管炎性ニューロパチーが鑑別にあがる.好酸球増多や気管支喘息を伴う好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)やANCA関連血管炎,その他オーバーラップ症候群などに伴う血管炎でも多発性単神経障害を呈するが,臨床的に鑑別は容易である.一方で,血清学的マーカーがなく,他臓器の障害もない非全身性血管炎性ニューロパチー(non-systemic vasculitic neuropathy: NSVN)との鑑別は容易ではない.NSVNは通常は末梢側に好発し,下肢が初発である軸索障害型の多発性単神経障害であり,疼痛を訴える部位が障害神経と一致していることが特徴である.一方でNAは一般的には上肢に好発し,疼痛は必ずしも神経支配域に一致しない.NSVNは原則病理診断が必要であるが,上肢の症状が主体のNAでは神経生検が不可能であり,補助診断は画像検査と生理検査に頼ることになる.軸索障害を主体とする両疾患では,神経伝導検査における感覚神経電位の低下及び消失がみられるはずであるが,感覚枝を含まない純粋運動神経や筋に分岐する各神経の遠位運動枝が障害されやすいNAではこの原則が利用できない.また肩甲上神経,前骨間神経,長胸神経などの,一般的な神経伝導検査の対象ではない神経が好んで侵されるNAでは,「ルーチン検査で調べる神経伝導検査が正常であること」が逆説的に支持所見となる.神経伝導検査は画像検査と異なり,神経全長のうちのどの部位が真の障害部位かを示すことは難しい.一方で画像検査と組み合わせることで,神経の全周にわたる障害でなく,一部の神経束に障害があることを示すことは可能である(前骨間神経支配の長母指屈筋のCMAPは低下しているが第一指導出のSNAPは正常であるなど).NAの根本病理が炎症であるならば,免疫介在性の神経炎なのか血管炎による神経障害なのか,今後の研究で明らかにされるであろう.現時点では両者の区別は容易でないが,手術適応となる慢性期に到る前に,複数の補助診断を組み合わせてNAを診断し,NSVNのように内科的介入ができるようにすることが今後の課題である.