[CSP17-1] 超適応の科学:概要
いまだかつてない速度で超高齢化が進む日本では、加齢に伴う運動機能障害や高次脳機能の低下、さらには認知症、意欲の低下、気分の障害、ひいては、極度の身体・脳機能の低下(フレイルティ)などが喫緊の問題となっている。健康な生活を脅かすこれらの多くの深刻な問題の背後には、加齢や障害によって変容する脳-身体システムに、我々自身がうまく「適応」できないという共通の問題が存在している。人の身体、脳は例えば「脊髄の損傷で片手が麻痺しても、脳が発達の過程で喪失した同側運動野からの制御を再度活性化して、麻痺した手を通常とは異なる神経経路で制御する[Isa, 2019]」等の高い冗長性を有している。このような背景のもと、文部科学省科学研究費新学術領域研究(研究領域提案型)「身体-脳の機能不全を克服する潜在的適応力のシステム論的理解(略称:超適応)」(研究期間:2019年度~2023年度)(領域代表:太田 順(東京大学))が立ち上がっている。そこでは「現在用いている既存の神経系では対応しきれない脳や身体への障害に対して、脳が、進化や発達の過程で使われなくなった潜在的機能等を再構成しながら、新たな行動則を獲得する過程」である超適応の解明が、上述の共通の問題を解決に導くと考えている。脳神経科学とシステム工学の密な連携による、急性/慢性の障害及び疾患・フレイルティの障害解明を通じた神経系の超適応原理の解明が、本研究領域を体系づける「超適応の科学」の目的である。本講演ではその概要について説明する。