[CSP18-1] 振戦に対する MRガイド下集束超音波治療
経頭蓋MRガイド下集束超音波治療(MRI-guided focused ulstrasound; MRgFUS)は, 2013年の本態性振戦(ET)に対するpilot studyの報告以降, 急速に世界に広がり, 特に我が国において普及が著しい. 2020年5月時点での症例数は, 全世界で3,943, わが国では382であるが, 2019年6月本態性振戦に対して保険収載され, パーキンソン病(PD)に伴う振戦や運動症状に対しても2020年9月に保険適用になり, 今後症例数はますます増加していくものと思われる. MRgFUSは切開・穿孔・穿刺のない低侵襲治療法(ただし定位脳手術用フレームの装着は必要)であり, これがその普及の第一の理由であることは間違いないが, DBS一辺倒時代が終わり, 凝固破壊術が再評価されつつあるここ数年の趨勢もその背景にあるように思われる. 筆者らは, 10例のET患者(平均年齢70.7歳, 男9例, 女1例)に対するMRgFUSの臨床研究に取り組んだ. すべて右手振戦に対する左視床腹中間核(Vim)の一側手術であった. 1か月後のClinical Rating Scale for Tremor(CRST)の平均改善率は, totalで62.3%, 治療対象とした右手に限ると86.2%(6か月後は84.3%)と良好な結果を得た. 術中の嘔気・嘔吐や頭皮違和感などの問題はあったが, 重篤あるいは永続する有害事象を認めなかった. [PDに対する一側淡蒼球凝固術の研究は4症例にとどまったが, オフ期における治療反対側のMDS-UPDRS振戦スコア(3.15-3.17)は3か月後, 83.3%改善した.] ETに対する一側MRgFUSの効果は, DBSに比べて遜色がなく, 安全性や医療経済性においては, MRgFUSが優る可能性がある. しかし, MRgFUS が凝固破壊術であるということは忘れてはならない. 最近再評価されている従来のRF凝固術も, DBS施行・継続不能な場合の緊急避難的対応としての再評価であってDBSにとってかわるという議論ではない. 凝固術の不可逆性(有害事象)や調節性の欠如はMRg-FUSによっても払拭されることはない. 特に両側凝固術にみられる不可逆的構音障害・嚥下障害のリスクをMRgFUSが解決できるとする根拠は今のところない. むしろ凝固巣の予想以上の拡大防止はFUSの重要な課題であると思われる. もう一つの制約は, skull density ratio(SDR)である. SDRが低いと超音波が脳内に集束せず, 治療遂行不能となる. 特に黄色人種はSDRが低い傾向にある. MRgFUSは一側のみであれば, 比較的安全で有効な治療法と言える. しかし, 両側治療は, 一側治療後, 一過性にであれ, あらゆる副作用が生じなかった症例に限って, 慎重に取り組むべきである. 新しいモダリティとしてのMRgFUSであるが, 両側同時施行が必要な例, 低SDR例など適用困難な場合も少なくなく, 定位・機能神経外科領域の疾患すべてをカバーすることはできない. DBSとの共存あるいは併用という観点で捉え, ニューロモデュレーション治療の中に適切に位置づけていくべきであろう.