日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

関連学会合同シンポジウム

関連学会合同シンポジウム18 神経生理学から紐解くニューロモデュレーション治療 (日本定位・機能神経外科学会)

2020年11月27日(金) 15:00 〜 16:30 第8会場 (2F K)

座長:杉山 憲嗣(豊田えいせい病院脳神経外科)、藤井 正美(山口県立総合医療センター脳神経外科)

[CSP18-2] 神経生理を基盤としたパーキンソン病の脳深部刺激療法

大島秀規 (日本大学医学部 脳神経外科学系神経外科学分野)

今日のDBSの発展には、臨床神経学や神経生理学的な研究成果の蓄積に拠る所が多く、DBSは局所の神経活動を調節するとともに、刺激局所から遠隔の部位にも影響をもたらすことが明らかとなっている。そのため神経回路などのネットワークの機能異常を原因とする疾患も潜在的なDBSの対象とみなされており、今日ではPDや振戦を中心とする不随意運動、薬剤抵抗性の疼痛性疾患に加えて、てんかん、強迫性障害やうつ病などの精神疾患にもその対象を広げつつある。このようなDBSの急速な臨床的発展に呼応して、近年、漸く複数の機器メーカーから新機能を搭載したデバイスが開発され、従前のデバイスに比べて精細な刺激の設定が可能となってきている。ちなみに近年のDBSデバイス開発のトレンドは、空間的調節性の向上と時間的調節性の獲得にある。DBS電極の植え込みに際して、どのターゲットに、どのような配列でDBS電極を留置するかを事前に計画するが、それには刺激ターゲット内部およびその周辺構造の刺激による症候の変化や副作用を知っておく必要がある。進行期PDの運動合併症に対して行われている代表的なDBSの治療部位に視床下核と淡蒼球内節があるが、いずれも小さな神経核の中に機能の異なるコンポーネントを有しており、刺激により改善する症候が領域によって異なる傾向がある。現行のDBS刺激デバイスは、マルチプル・プログラミングである “interleaving stimulation” や “MICC” が可能な刺激装置ならびに指方向性刺激が可能なdirectional leadが主体であり、刺激の空間的調節性が格段に向上した。マルチ・プログラミング(interleaving 刺激)により、複数の条件の刺激を異なる電極(活性点)を用いて実行することを可能となっており、hyper-kynetic(振戦、ドパ誘発性ジスキネジアなど)な症候および hypo-kynetic(無動/寡動、すくみ現象など)な症候の混在するパーキンソン病に対して、いずれの症候にも対応できるような機能的局在を考慮したDBS電極の留置が行われるようになりつつある。 目的とする神経の調節に有用なシグナルを直接脳から検出し、その情報をもとに至適な刺激を出力する “closed-loop” DBSシステムを搭載した、時間的調節性を有するデバイスが本邦でも発売間近となっている。 PD の患者の STNで記録されるlocal field potentialの分析では、11-30Hz 前後のβ帯域のオシレーション活動が亢進していることが知られており、このβ帯域のオシレーション活動は、ドパミンの投与により減少すると共にその活動の抑制と運動症状改善の程度の間には正の相関があることも報告されている。このシステムを用いた臨床研究により、従来の持続的DBSに比較して、“closed-loop” DBSで運動機能の改善が優れている結果が報告されている。