[CSP19-1] Gold Coast診断基準
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、診断を行うためのバイオマーカーが存在しないため、臨床症状や神経伝導検査所見、針筋電図検査所見から総合的に診断が下される。ALSの診断基準としてこれまで、Lambert診断基準、El Escorial 診断基準、改定El Escorial 診断基準、Awaji診断基準が提唱され、改定が重ねられてきた。更に近年、Awaji診断基準を補強した、Updated Awaji診断基準も提唱された。しかしこれらの診断基準において、いくつかの問題点が指摘されている。一つは、診断カテゴリーの複雑さである。El Escorial 診断基準以降、ALS診断は、definite, probable, possibleのカテゴリーに分けられようになった。しかしこれらのカテゴリー分類において、十分な臨床経験を積んだ検者が複数回カテゴリー分けを行っても、再現性がそれほど高くないことが指摘されている。二つ目として、definite, probable, possibleのカテゴリー分類が、ALS診断の確実性を表していると解釈されることが指摘されている。実際、possibleと診断された患者が、経過とともにprobable 、definiteへと経過していくかについては、明らかとはなっていない。また、possibleと診断された患者が、probable 、definiteを経ずに、呼吸不全で亡くなられることも少なからず報告されている。三つ目として、上位運動ニューロン徴候を身体2部位に認めれば、possible ALSと診断されてしまうことがある。原発性側索硬化症のようなALSとは異なる経過をたどる疾患であっても、ALSの診断基準に当てはまってしまうことが問題点として指摘されている。四つ目として、Awaji診断基準自体が、2008年に公表されたものであり、その後多くの研究報告がなされていることがある。このような問題点から、2020年8月に新たな診断基準が公表された。この新たな診断基準について議論された会議は、オーストラリアのGold Coastで開催されたため、“Gold Coast診断基準”と名付けられている。この診断基準の主要項目としては、1. 進行性の経過があること、2. 身体1部位以上に上位および下位運動ニューロン徴候(あるいは筋電図での脱神経所見)を認めること、あるいは身体2部位以上に下位運動ニューロン徴候(あるいは筋電図での脱神経所見)を認めること、3. 他疾患が除外できること、が挙げられている。本講演では、“Gold Coast診断基準”における主な改定点、およびこの診断基準で問題となる可能性のある点について、議論を行う。