日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

関連学会合同シンポジウム

関連学会合同シンポジウム19 ALSの新たな展開 (日本神経治療学会・日本神経学会)

2020年11月27日(金) 16:45 〜 18:15 第5会場 (1F C-2)

座長:桑原 聡(千葉大学脳神経内科)、横田 隆徳(東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 脳神経病態学分野)

[CSP19-2] Threshold tracking TMSを用いた上位運動ニューロン障害の評価法

東原真奈 (東京都健康長寿医療センター 脳神経内科・脳卒中科)

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は上位および下位運動ニューロンの変性により、全身の進行性の筋力低下・筋萎縮をきたす予後不良の神経疾患である。しかし、近年ではリルゾール、エダラボンといった治療薬に加え、様々な治験が試みられるようになり、ALS患者の光明となっている。そのような状況において、治験薬の効果が高いと考えられる発症早期のALS患者の正確な診断と、また病勢を把握するためのバイオマーカー開発は喫緊の課題となっている。ALSの診断において、下位運動ニューロン(LMN)障害は臨床症候および針筋電図によってなされるが、上位運動ニューロン(UMN)障害については主に臨床症候によってなされてきた。しかしながら、これまで指摘されてきたように、LMN障害が存在する中でのUMN障害の臨床評価の難しさは診断基準の感度の低下にも寄与し、また臨床的にUMN徴候を認めないALS患者での誤診や診断の遅れの原因となっている。近年、新しい磁気刺激検査法であるthreshold tracking TMSを用いた皮質興奮性の評価法が開発され、ALSをはじめとする運動ニューロン病での研究がすすめられてきた。一般にALSでは、cortical silent periodが短縮し、運動誘発電位(MEP)振幅が増大するとされ、また中枢運動伝導時間が延長するとされている。さらに二連発刺激法を用いた検討では、ALSでは短潜時皮質内抑制(SICI)の減少と皮質内促通(ICF)および短潜時皮質内促通(SICF)の増大が観察されるとされ、以上からALSにおいては運動皮質の興奮性が増大していると考えられてきた。特に、ALS患者とALS以外の神経疾患(ALS mimics)を比較した検討では、thoreshold trackingTMSは感度73.2%、特異度80.9%で両者を鑑別することができ、TMSの評価指標の中でaveraged SICI(刺激間隔1-7msのSICIの平均値)がもっとも信頼性の高い指標であったと報告されている。またALSの亜型とされるflail armおよびflail leg variantにおいても典型的なALSと同様にMEP振幅の増大とSICIの減少が観察され、皮質興奮性が増大していると考えられ、これらのvariantについてもALSと共通する背景病態生理の存在が示唆されている。さらに年齢、発症部位、APB CMAP振幅、CSP持続時間、averaged SICIからなるdiagnostic indexも考案され、診断における有用性が報告されている。一方、予後との関連について調べた検討では、発症2年以内のALS患者では急速な肺活量の低下、ALSFRS-Rの急速な減少、球麻痺発症に次いでaveraged SICIの減少もALSの予後不良因子であると報告された。また、ALSに特徴的な認知機能障害を伴う患者で、皮質興奮性の増大が強くみられることも報告されており興味深い。本発表では、threshold tracking TMSを用いたALSの上位運動ニューロン障害の評価法およびその有用性について論じる。