50th Memorial Annual Meeting of Japanese Society of Clinical Neurophysiology (JSCN)

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関連学会合同シンポジウム

関連学会合同シンポジウム2 神経生理学的アプローチによる心理学研究 (日本生理心理学会)

Thu. Nov 26, 2020 8:10 AM - 9:40 AM 第8会場 (2F K)

座長:勝二 博亮(茨城大学教育学部)、軍司 敦子(横浜国立大学教育学部)

[CSP2-1] 反応抑制課題における事象関連電位と発達性協調運動症

鈴木浩太 (四天王寺大学 教育学部 教育学科)

情報処理過程を明らかにすることは、心理学における主要なテーマの一つである。認知心理生理学的アプローチ(cognitive psychophysiological approach)では、心理学的な操作を独立変数とし、事象関連電位(event related potential: ERP)成分を従属変数として、ERP成分の機能的意義を検討する中で、情報処理過程を明らかにすることを試みている。本話題では、ERPを用いた認知心理生理学的アプローチを概説し、認知心理生理学と臨床神経生理学の接点として、発達性協調運動症(developmental coordination disorder: DCD)者の反応抑制課題中のERP成分を検討した研究を紹介する。Go/Nogo課題は、代表的な反応抑制課題の一つである。Go/Nogo課題では、高頻度で呈示されるGo刺激に対してボタンを押し、低頻度で呈示されるNogo刺激に対してボタン押し反応を止めることが要請される。Nogo刺激に対して、Nogo-N2とNogo-P3が観察されることが知られている。認知心理生理学的アプローチによって、Nogo-N2は、実際の運動が開始される前の認知処理が反映され、Nogo-P3は、実際の運動を抑制する認知処理が反映されることが示されてきた。DCDは、協調した運動の習得や遂行の困難さ(運動の不器用さ)を主症状とする神経発達症であり、DCD児・者は、反応抑制課題において、低成績を示すことが報告されている。そこで、Suzuki et al.(2020)の研究では、反応抑制課題におけるDCD者の低成績の背景にある情報処理過程の特徴を明らかにするために、Nogo-N2とNogo-P3について検討した。参加者は、成人81名であり、DCDのアセスメントツールであるMovement Assessment Battery for Children Second editionによって、DCD群と統制群に分類した。Go/Nogo課題中の脳波を記録し、ERPを算出した。その結果、Go/Nogo課題のお手つきエラー率は、統制群と比較して、DCD群で増大した。また、統制群と比較して、DCD群で、Nogo-P3振幅が減弱した。一方で、Nogo-N2に関して、DCD群と統制群の有意な差は認められなかった。したがって、DCDの運動不器用さの影響は、実際の運動が開始された後の認知処理に限定されることが示唆された。以上のことから、心理学においてERPは情報処理過程を検討するために用いられてきており、その知見を踏まえて、神経発達症や精神疾患などの臨床群を検討することによって、認知的な特徴の理解に役立てられるものと考えられた。