日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

関連学会合同シンポジウム

関連学会合同シンポジウム2 神経生理学的アプローチによる心理学研究 (日本生理心理学会)

2020年11月26日(木) 08:10 〜 09:40 第8会場 (2F K)

座長:勝二 博亮(茨城大学教育学部)、軍司 敦子(横浜国立大学教育学部)

[CSP2-2] 背景音が認知活動に及ぼす影響

田原敬, 勝二博亮 (茨城大学 教育学部)

【はじめに】今日の教育現場では「主体的・対話的で深い学び」が重視されるようになり,これまでのように教師が一方的に教授活動を行う講義形式に加え,児童生徒同士が積極的に意見交換をするような実践が増えてきた。その一方で,話し合い活動や共同学習に伴う活動音が雑音となり,児童生徒の学習活動全般を妨げる可能性も指摘されている(Klatte et al., 2013, 辻村・上野,2010など)。そこで本稿では,背景音が認知活動に及ぼす影響について,聴覚課題及び非聴覚課題の視点から検討した2つの研究について報告する。
【研究1:聴覚課題への影響】近年,雑音下での聞き取りを検討する際に,どれだけ正確に聞き取れたのかという聴取成績のみならず,正確に聞き取るためにどれだけの認知労力を要したのかというListening Effort(以下LE)も着目されるようになった。本研究では,健常大学生計24名を対象に雑音下復唱課題を実施し,課題遂行中の瞳孔径を計測することで,呈示音圧やSN比といった音響物理学的要因がLEに及ぼす影響について検討した。課題では,雑音が呈示された3秒後に文章が呈示され,対象者には文章の内容を正確に復唱することを求めた。音声の呈示音圧(60dB,48dB)×SN比(0dB,-4dB)の4条件が設定された。瞳孔径は各対象者の左目から50Hzのサンプリングレートで計測し,完全に復唱できていた試行のみを分析対象とした。文章呈示区間における各条件の瞳孔径のピーク値を比較した結果,呈示音圧のいかんを問わず,SN比-4dB条件において瞳孔径が拡大していた。瞳孔径の拡大はLEの増加を意味する(Zekveld et al., 2018)ことから,雑音下では音圧よりもSN比の方がLEに強く影響を及ぼすことが示唆された。
【研究2:非聴覚課題への影響】健聴大学生14名を対象に近赤外線分光法(NIRS)を用いて内田クレペリン検査遂行中の雑音呈示による脳活動への影響を検討した。3分半の計算課題遂行中に20秒間の雑音区間が3回呈示され,雑音の呈示音圧の違いから50dB条件と70dB条件が設定された。NIRS計測ではマルチディスタンス法を用いて頭領域から皮膚血流成分を除去した。無音区間と雑音区間のOxy-Hb平均振幅値を比較した結果,50dB条件では差がみられなかったが,70dB条件では雑音区間にて背外側前頭前野や前頭極にあたる領域でOxy-Hbの増大が認められた。同領域については,聴覚的な選択的注意との関連(Wu et al., 2006)や,雑音下で注意機能の負荷が高まると活性すること(Tomasi et al., 2005)が指摘されており,一定音圧以上の雑音環境下では非聴覚課題遂行中であっても認知的負荷を引き起こすことが示唆された。