日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

関連学会合同シンポジウム

関連学会合同シンポジウム21 精神疾患に対する手法・治療のあれこれ (日本薬物脳波学会)

2020年11月28日(土) 08:30 〜 10:00 第5会場 (1F C-2)

座長:木下 利彦(関西医科大学 精神神経科学教室)、吉村 匡史(関西医科大学 精神神経科学教室)

[CSP21-5] 精神分析への神経画像的アプローチ

齊藤幸子1, 高瀬勝教1,2, 高野悟史3, 木下利彦1 (1.関西医科大学 医学部 精神神経科学講座, 2.医療法人桐葉会 木島病院, 3.医療法人以和貴会 金岡中央病院)

フロイトが提唱してきた精神分析的精神療法の現場でおこる「無意識の交流」や「投影性同一視」「共感」「転移逆転移」は、ミラーニューロンと関連が深い。MRI拡散テンソル画像解析は、水分子の拡散を計測し、大脳白質などの微細な組織構造の変化を描出するMRI技術の一つであり、主に異方性の強さのパラメータであるFA(fractional anisotropy)を計測・評価の指標としている。Two-tensor Tractgraphyは、この拡散テンソル画像解析ソフトで、Sinngle-tensor Tractgraphyで構築できなかったcrossing fiberを描出することができ、本研究の関心領域であるミラーニューロンの描出に不可欠である。演者らは、20代から40代の10名の神経症患者に対して、1年から2年の精神分析的治療(週1~2回50分90度対面法、週2~4回50分カウチ法)を実施し、治療前後でMRI拡散テンソル画像撮影と心理検査を行い、ミラーニューロンの状態を調べた。Two-tensor Tractgraphy を用いて治療前後のミラーニューロンを描出した結果、10名中、8名の患者でFAの上昇、2名の患者でFAの下降を見た。FAが上昇した患者8名のうち6名は、加齢によってFAが下降しはじめるとされる40代で、精神分析的な関わりが、加齢性変化に逆らった脳の変化をもたらす可能性も推測された。FAが下降した2名については、自閉症スペクトラム指数日本語版(Autism-Spectrum Quotient-Japanese version: AQJ)の上昇を認めていた。近年、神経症性障害の治療は、薬物療法と認知行動療法の併用療法が中心である。依然として再発の課題は残っており、精神分析的精神療法が、再発を防止する補助的治療として見直されつつある。精神分析的なアプローチは、精神症状を、治療者・患者間に生まれる転移関係に移行させ、神経症性障害の根治療法になりうるとされる。精神分析的治療のような、自他を理解しようとする週1回~4回50分程度の試みは、加齢にも逆らった大人の脳の成長をもたらしうると考えている。