[CSP23-4] 脊椎手術に対する仮想現実技術(VR)の開発と展望
仮想現実(Virtual reality:VR)とは,現実感を伴う仮想的な世界を使用者に提供する技術である.また複合現実(Mixed Reality : MR)とは,現実空間と仮想空間がリアルタイムに影響しながら新たな空間を構築し,現実空間と仮想空間を複合する技術である.われわれは2016年に側臥位PPS刺入用として最初のVRシミュレーターを開発した.CT画像から椎体および骨盤,血管,尿管,インプラントなどの三次元形状をコンピューターへ入力した.表示にはヘッドマウントディスプレイ(HMD)であるVIVE®を使用した.VRシミュレーターでは,仮想空間内に立体解剖が表現され,使用者は空間内を自由に移動しながらHMDにより任意の位置から任意の断面で三次元的に観察しながら椎弓根スクリュー挿入が可能であった. 2017年にMRを実装したHMD(MR-HMD)であるHoloLens®が発売され,術中支援装置として用いた.術前に執刀医がスクリュー軌道をプログラミングしてMR-HMDに入力し,術野へ重畳表示した.術中支援では患者個別の解剖と術前にデザインしたスクリューやケージの挿入軌道を術野に投影しながら手術が可能であった.2020年2月に汎用画像診断ワークステーション用プログラムとして医療機器認証されたVRサービスが開始されたとともにデバイスの進歩により操作性が格段に向上した. VRとMRの違いは現実空間との相互作用(interaction)の有無である. MRが現実空間に情報を付加する事を目的とする一方で,VRは現実から乖離した空間を視覚情報として提供することに主眼を置いているため,その空間は必ずしも現実空間と連結している必要はない.われわれは遠隔地のVRシステムをインターネットで相互接続し,同一VR空間内でのカンファレンスを試みている.VR/MRの臨床応用としてはデバイスが位置情報および視線の共有機能を有することから術中画像支援だけではなく,優れた教育およびコミュニケーションの手段として有用と考えている.