日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

関連学会合同シンポジウム

関連学会合同シンポジウム4 ボツリヌス「+α」でもう一段上を目指す (日本ボツリヌス治療学会)

2020年11月26日(木) 10:00 〜 11:30 第8会場 (2F K)

座長:正門 由久(東海大学医学部リハビリテーション科)、有村 公良(大勝病院)

[CSP4-2] 痙縮に対するボツリヌス療法とリハビリテーション

衛藤誠二1, 河村健太郎1, 藤本皓也2 (1.鹿児島大学大学院 リハビリテーション医学, 2.霧島杉安病院)

 我々は、脳卒中後の片麻痺を改善する機能訓練として促通反復療法を開発し、日常診療で用いている。これは、促通手技による伸張反射や皮膚筋反射を利用し,患者の意図した運動を実現させ、その反復により麻痺の改善を目指す運動療法である。麻痺肢の痙縮が強い場合には、家庭用ハンデイマッサージャーによる振動刺激痙縮抑制法を行い、痙縮を減弱させてから、促通反復療法を実施している。痙縮減弱の機序としては、麻痺肢のF波振幅が振動刺激後に低下することから、脊髄興奮性低下の関与が考えられる。痙縮に対しては、この他に筋伸張、温熱療法、装具療法を状態に合わせて用い、ボツリヌス療法を併用することで、麻痺肢の痙縮軽減と機能改善を図っている。症例1は49歳女性。右線条体の脳梗塞で左上肢の痙縮と麻痺が残存し、発症後1年経過した。Brunnstrom stageは左上肢3、手指3、Modified Ashworth Scale(MAS)手関節屈筋2, 手指屈筋2であった。痙縮が強いため、左上腕二頭筋、手根屈筋、手指屈筋群に振動刺激を行い、痙縮を一時的に軽減して促通反復療法を行ったが、期待した手関節背屈、手指伸展の随意収縮は見られなかった。ボツリヌス毒素を手指、手関節屈筋に注射した後は、手関節背屈、手指伸展の随意収縮はないものの、肩甲帯の可動性が向上し、肩関節屈曲位での肘屈伸が可能となり、手指の握りこみが軽減し、ドアの開閉、料理時の固定が可能となった。注射前と注射後5週での評価は、手関節MAS2→1、上肢のFugl-Meyer Assessmentで21点→29点と、痙縮軽減と機能改善が見られた。Motor Activity Log のAmount of use 0.63→1.18, Quality of movement 0.63→1 となり、上肢の使用頻度の向上も認められた。振動刺激による痙縮軽減では、随意運動の改善はなかったが、ボツリヌス毒素注射による、手関節、手指屈筋の痙縮軽減で、近位部の肩、肘の麻痺が改善し、日常的な使用が改善した。症例2は41歳女性。左視床梗塞で右片麻痺と痙縮が残存し、発症後5年経過した。T杖と短下肢装具で歩行可能だが、Brunnstrom stage 右上肢3、下肢3、MAS上肢屈筋群2-3,下肢屈筋群2で、右手は握りこみ、右大胸筋に痛みを認める。定期的にボツリヌス毒素注射を行っている。注射により、痙縮、痛みが軽減するが、筋緊張低下により、粗大な不随意運動が発現することがある。そのため、筋緊張を適度に軽減した状態で、外来リハビリテーションで筋ストレッチ等を継続している。