[CSP5-1] 身体化錯覚の転移に関わる脳内神経基盤の検討
脳は常に恒常性を保持しようとする生物における最重要器官であるが、視覚や聴覚などの外的刺激を受けて「騙される」ことによって時として身体イメージが歪曲されることがある。この現象で、よく知られた例はラバーハンド錯覚である。これは、ラバーハンドが筆などで触られているのを見ながら(視覚)、視覚的に遮蔽された自身の手に対して同期して筆が触れる(触覚)と、ラバーハンドが自分の手であるかのように錯覚するという現象である。一方、人は自らの意思で身体を動かすことが出来るため、意図により生起された運動と、その結果を見ることでより強く身体部位が自己に帰属することを感じる。つまり、体性感覚、触覚と視覚及び運動意図の合致により、さらに強固な身体化の錯覚が生起されると考えられる。この時、刺激を受けた部位の身体化錯覚が強固に生じていると考えれば、視触覚刺激を受けていない別の部位にも身体化の錯覚が転移する可能性があると考えられる。しかし、これまでの身体化錯覚に関わる研究で、錯覚の転移について焦点を当てた研究はほとんどない。また、身体化錯覚の脳内機序については、これまで、fMRIを用いた研究がいくつか報告されているが、本機器は脳内の血流変化(量的変化)を調べるものであり、神経の本質的な活動である律動変化(質的変化)の検出を一部苦手としている。そのため、身体化錯覚に関わる脳内メカニズムの全容が解明されたとは言い難い。一方、皮質脳波は神経の律動変化の検出を得意とするため、これまでに明らかにされていない身体化錯覚の脳内メカニズムの解明につながる可能性がある。本合同シンポジウムでは、これまでの錯覚研究で行なわれていた、視触覚刺激を加えた部位の錯覚現象に着目するのではなく、「刺激を受けていない別の部位への身体化錯覚の転移」に焦点を当て、皮質脳波をはじめとする脳機能計測および解析によって得られた知見について紹介する。今後、身体化錯覚の神経基盤がさらに明らかになれば、特異的認識操作を用いた新たな神経リハビリテーション手法の開発へとつながる可能性がある。