日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

関連学会合同シンポジウム

関連学会合同シンポジウム7 小児脳波・脳磁図研究の最前線 (日本小児神経学会)

2020年11月27日(金) 08:00 〜 09:30 第7会場 (2F J)

座長:夏目 淳(名古屋大学大学院医学系研究科障害児(者)医療学寄附講座)、小林 勝弘(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 発達神経病態学)

[CSP7-1] 小児の脳波解析~高周波からネットワーク分析まで~

柴田敬 (岡山大学 医歯薬学総合研究科 発達神経病態学 (岡山大学病院 小児神経科))

従来の臨床頭皮脳波で主に観察されていたのはβ帯域以下の活動であるが、近年のデジタル脳波技術の進歩により、用紙記録では検出できないγ帯域(40-80Hz)および80Hz以上の高周波帯域の活動を観察できるようになった。高周波はさらに80-250Hzのrippleと250-600Hzのfast rippleに分けられる。脳波における高周波活動、特に明瞭な振動性を示す高周波振動(HFOs)はてんかん原性と深く結びついていることが知られており、その関係性は棘波とてんかん原性の関係よりも強いと言われている。HFOsは初め頭蓋内電極脳波記録で検出され、てんかん外科においてはHFOsの出現領域を切除することがより良い転帰に結びつくことなどが報告されてきた。我々は頭皮脳波でもripple帯域のHFOsが検出できることを報告した。最近では頭皮脳波においてもfast ripple帯域のHFOsが検出されることも報告されている。また既に頭皮電極と頭蓋内電極の同時記録により、頭皮脳波のHFOsは頭蓋内のHFOsを反映することが報告されている。頭皮脳波でのHFOsはWest症候群においてよく観察され、その強弱と発作の焦点や発作頻度との関係が推察されている。CSWSの脳波や、ローランドてんかんなどself-limitedなてんかんの脳波においてもHFOsは観察され、重症度との関係などが検討されている。さて、HFOsも含めて脳波は様々な周波数の活動が混ざり合って構成されている。個々の周波数の活動はそれぞれが独立して出現しているわけではなく、それらのいくつかはお互い何らかの関係性をもって出現しているものと推測されている。このように異なる周波数成分が相互に関連性を持って活動する現象をCross Frequency Couplingと呼んでおり、Phase-Amplitude Coupling(PAC)もその一つである。PACは比較的早い周波数帯域の活動の振幅(amplitude)が低い周波数帯域の活動の位相(phase)によって変調されている状態を特徴とした結合のことである。これらを解析することは、神経活動のネットワークを理解する方法の一つとなる。HFOsはすべてがてんかん原性を表しているわけではなく、生理的なHFOsも存在する。しかし、これらを区別することは必ずしも容易ではない。頭蓋内脳波における研究では生理的なHFOsは0.5-1Hzの徐波とのcouplingがより強く、てんかん原性を表すHFOsは3-4Hzの徐波とのcouplingがより強かったと報告しているものがある。またHFOsがcouplingする徐波のphaseの違いにより、てんかん原性と非てんかん原性のHFOsを識別する検討もなされている。また、異なる周波数同士のcouplingを調べることは、てんかん原性の有無のみでなく、脳内神経ネットワークの解明から病態の理解にもつながる可能性があり、我々も今後さらなる検討を重ねていきたいと考えている。