[CSP7-2] てんかん性スパズムに対する脳梁離断術の予後因子となる術前頭皮脳波の特徴:左右対称性と位相差について
脳梁離断術は薬剤抵抗性の失立発作、非定型欠神発作などに有効な手術方法である。近年は小児のACTH抵抗性のてんかん性スパズムへも盛んに応用され、発作消失率は半数程度と高く、術後の認知機能への影響は少ない。これまでに手術予後を予測する因子としては臨床的な背景について検討されてきており、大脳の器質異常がないこと、術前発達が良好なことが判明してきているが、生理学的な因子は判明していなかった。術前の非侵襲検査の段階で、脳梁離断の予後予測ができれば、より適切な手術適応を検討できる様になる。 そこで我々は、てんかん性スパズムの脳波の左右の大脳半球間の非対称性や位相差と発作予後の関係について検討した。1つ目の研究(Kanai et al. Sci Rep. 2019)では、主要な頭皮脳波上の特徴である発作時徐波について着目し、てんかん性スパズムに対して脳梁離断術を行なった17人(発作消失: 7人、発作残存: 10人)の患者における、術前の長時間頭皮脳波で得た発作時脳波と手術予後の相関を検討した。術前発作時頭皮脳波における(1)左右の大脳半球間での徐波の陰性ピークの時間差(negative peak delay)、(2)左右の振幅の比(amplitude ratio)、(3)徐波の出現の長さ(slow wave duration)の3つの非対称性因子と、手術予後(発作消失/残存)の関係を検討した。その結果、いずれに置いても予後不良群で良好群より強い非対称性を認めた。2つめの研究(Oguri et al. 投稿中)では、同じ患者群に対して、computer-basedの周波数解析を行い、deltaからgammaまで5段階の周波数帯域ごとに、(1)相対power(relative power spectrum)、(2)powerの左右差(ictal power laterality)、(3)左右の対称電極間の位相差(cross-power spectrum)について検討した。その結果、(1)相対powerでは両群で差はなく、(2)powerの左右差は予後不良群においては強い傾向があるものの有意ではなく、(3)位相差についてはdelta, theta, gamma帯域において予後不良群で強い傾向にあり、且つそれらは前頭部と側頭部の左右の対称電極間で明らかな傾向にあった。これらの研究から、てんかん性スパズムの発作出現において、脳梁をより強く介して発作を発生させている症例では脳梁離断の効果が高い可能性が考えられた。