[CSP7-4] 脳磁図の最前線;コミュニケーション脳科学とDual MEG
【目的】人と人とのコミュニケーションは、まず相手の存在を意識することにはじまる。明示的に人の存在を意識する前段階には、脳内で先に相手の存在が表象化されなければならない。これまでこうした非意識レベルでの相手の存在を表象化した脳活動は明らかにされていない。北海道大学では最近、二台の脳磁計を光ファイバーにて接続し、映像の遅延を80ミリ秒に最小化し、擬似的に対面した2名の同時計測が可能なDual MEGシステムを開発した。私たちは人のコミュニケーションの基礎をなすと考えられる「相手を非意識レベルで表象する脳活動」についてDual MEGシステムを用いて検討した。【方法】対象者は健康で友人同士の成人男性のペアとした。計12ペアが参加し、うちデータ利用可能な22名を対象とした。被験者はそれぞれのシールドルーム内にて座位で脳磁記録を行った。被験者の前にはハーフミラーを通してカメラ、プロジェクタを設置し、正面からのアイコンタクトを可能とした。各被験者は、相手の顔のリアルタイムの映像(リアル)、その同じ画像を録画された映像(シミュレート)をそれぞれ20秒間×40回ずつ、合計80回見た。各試行直後、被験者は視線、まばたき、表情などの動作により、見た映像がリアルかシミュレートかを判別した。記録された脳磁活動はこれまでの研究の結果からシータ帯域に注目しHilbert変換を行い、-0.5秒から0秒までをベースライン区間、3.0-17.0秒までを解析区間として事象関連同期・脱同期(ERS/ERD)を求めた。標準脳に投影された活動を62部位にわけて解析を行った。本人がシミュレートと判断(相手の実在に気付いていない)した試行において、部位(62水準)×実際のビデオ条件(リアル・シミュレートの2水準)で分散分析を行った。p<0.05を有意水準とした。【結果】部位の主効果(p=0.0080)とビデオ条件の主効果(p=0.0037)を認めた。ビデオ条件ではθ波がリアル条件<シミュレート条件であり、これらの結果は特に右下前頭部(三角部、中前頭回頭部、中前頭回尾部)を中心にシミュレート条件での過同期としてみられた。【考察】相手を非意識レベルで表象する脳活動は右下前頭回を中心に行われている可能性が示唆された。右中前頭回は内外の注意の切り替えに活動しているとされ、リアル条件では相手の存在に対する注意を持続している可能性がある。また右三角部は人やサルにおいて手の動作などを観察することで生じるほか、不整合性を検知しN400を生じることから、中前頭回と合わせてリアル・シミュレートの判断にかかる作業を行なっているのかもしれない。