日本臨床神経生理学会学術大会 第50回記念大会

講演情報

関連学会合同シンポジウム

関連学会合同シンポジウム9 リハビリテーション治療における歩行分析の有用性 (日本リハビリテーション医学会)

2020年11月27日(金) 10:10 〜 11:40 第6会場 (2F I)

座長:長谷 公隆(関西医科大学 リハビリテーション医学講座)、藤原 俊之(順天堂大学大学院 医学研究科リハビリテーション医学)

[CSP9-1] 成人脊柱変形矯正術の歩行分析

長谷公隆 (関西医科大学 リハビリテーション医学講座)

 二足歩行は、重力環境下でヒトが移動するためのリズム運動であり、活動を支える重要な能力である。脊柱アライメントの異常は歩行制御系に大きな影響を及ぼし、超高齢社会を迎えて近年では、腰背部痛やQOL低下を招く成人脊柱変形(adult spinal deformity; ASD)に対する矯正術が、最小侵襲脊椎安定術(minimally invasive spine stabilization; MISt)手技の発展を背景に盛んに行われるようになっている。ASD矯正術による治療では、PI(pelvic incidence)、LL(lumbar lordosis)、SVA(sagittal vertical axis)、TK(thoracic kyphosis)などのX線学的指標が用いられるが、動的評価として歩行分析の役割が期待される。術後リハビリテーションでは、劇的に改善した脊柱アライメントへの適応を促しながら、術後合併症の管理・抑制に貢献する必要があり、本学でも3次元歩行分析を含めたリハビリテーション評価に基づいたアプローチを検討している。 歩行再建において重要なことは、歩行速度などの活動指標の回復に重点を置くことにある。そこで、ASD矯正術後における歩行速度の改善度がどのような要因に基づくかについて検討した。健常者の3次元歩行分析データを単位空間とし、変数間の相関関係を考慮したマハラノビスの距離(Mahalanobis distance; MD)によってASD術後患者61名の歩行関連指標を尺度化した。術前と術後6か月の歩行速度の差と、任意に抽出した歩行関連指標10項目で形成されるMDとの相関係数を最大化する項目をマルコフ連鎖モンテカルロ(Markov chain Monte Carlo; MCMC)法による確率分布から抽出した。その結果、踵接地時から荷重応答期における歩行関連指標がサンプリングされた。MISt の術後において一過性に生じる大腿神経麻痺等の管理が必要であり、大腿周囲症状に配慮したリハビリテーションを計画することの重要性が確認された。 ASD術後の二次変形予防についても同様に、術直後と6か月後のX線学的指標の変化が、退院時におけるどのような歩行パターンに関係しているかについて、MCMC法によってサンプリングを試みた。その結果、術後6か月の時点でSVAが90mmを超える症例では、膝関節屈曲位で踵接地していることが確認された。 現代の歩行分析コンポーネントには、3次元歩行分析等で得られる膨大なデータの中から、次元削減と学習アルゴリズムによって注目するべき指標を抽出するデータ・マイニングが含まれてきている。任意の分布から重要度サンプリング(importance sampling)を実現するMCMC法は、治療法やその目的に応じて比較的簡便に適用することが可能であり、知能増幅器(intelligence amplifier:IA)としての役割が期待される。