[CSP9-4] HALによる運動改善効果の検討:運動解析学の視点から
【目的】HAL(Hybrid Assistive Limb)は表面電極で計測される生体電位信号に基づく肢運動支援により麻痺肢の運動を改善する効果があると考えられ、臨床評価に基づく報告がなされてきている。一方、運動改善の経過やその背景にある運動学的機序については十分に考察されていない。筑波大学では、HALによる運動改善の運動学的機序を考察し臨床へのフィードバックを得ることを目的として、HAL治療前中後の運動・筋活動を計測し解析を行っている。本報告では、解析結果を疾患横断的に概観し、HALの効果について運動解析学的視点から考察する。【方法】対象は歩行治療を行った44例(A脳血管障害20例(内HAL群11例、非HAL群9例)、B後縦靭帯骨化症による脊髄症15例、C慢性期脊髄損傷9例)、D肘運動治療を行った脳性麻痺患者2例、E肩運動治療を行った7例(急性期頚髄損傷1例、頚髄症に対する術後C5麻痺3例、慢性期脳卒中3例)である。HAL治療の前中後において当該運動の3次元動作計測(VICON MX)と無線表面電位計測(Delsys Trigno Lab)を行い、関節運動、関節協調運動、筋活動度および筋協調運動(筋シナジー)を治療の前中後および治療期間前後で比較した。【結果】A脳血管障害例の歩行訓練後に麻痺側非麻痺側の筋シナジー対称性および関節協調運動が改善した。B後縦靭帯骨化症に対する術後急性期群において関節協調運動が改善し、術後急性期慢性期両群で股関節運動およびダブルニーアクションが改善した。C慢性期脊髄損傷例の歩行訓練後に、治療前に認めなかった下肢筋活動を治療後に認めた。D脳性麻痺例の肘屈曲伸展運動では拮抗筋の共収縮が改善し、E肩運動訓練においては、僧帽筋や大胸筋の代償的活動が低減した。【考察】HALは末梢の神経・筋活動と関節運動が整合した運動訓練を提供し、中枢系の運動制御に改善効果をもたらすと考えられている(iBF仮説)。本報告で概観した疾患群で、関節協調運動や筋協調運動がHAL治療後に改善した。協調運動とその制御は脳脊髄を含む中枢神経系の働きによるものであることから、HAL治療の機序の可能性として、中枢神経系の協調制御に対する作用が考察された。